急務!法対応(第13回)
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公開日:2022.03.28
リコール隠しや食品偽装などの企業不祥事が相次ぎ大きな社会問題となったことを背景に、2006年4月に、公益通報者保護法が施行されました。
ところが、同法成立後も、企業の内部通報制度が機能せず、大きな不祥事に発展した事例が後を絶ちませんでした。そこで、2021年6月に公益通報者保護法の一部を改正する法律が公布され、本年6月より施行されます。
本稿では、施行前のこの時期に、改正前の公益通報者保護法について概観した上で、今回の主な改正点について解説します(以下で、「法」とは、公益通報者保護法をさします)。
企業による一定の違法行為などの不祥事を、労働者が企業内の通報窓口や外部のしかるべき機関に通報することを「公益通報」といいます。
これにより、企業の不祥事の是正を促し、国民の生命、身体、財産その他の利益への被害拡大を防止することが期待できます。ただ反面、通報した労働者は、そのことにより企業から解雇や降格などの不利益な取り扱いを受ける恐れがあります。
そこで、企業による不祥事から国民の生命、身体、財産などを保護するため、公益通報を促進するとともに、公共の利益のために不祥事を告発した労働者を解雇や降格などの不利益な取り扱いから守ることを目的として制定されたのが公益通報者保護法です。
そして、同法により、労働者が、どこへどのような内容の通報を行えば保護されるのかというルールを明確にしたものが、公益通報者保護制度です。
当然、経営者も何が不利益な取り扱いに当たるのかという点など、保護法、保護制度についてしっかりと知っておく必要があります。そうしないと、不祥事によるイメージ悪化に加えて、保護法に違反した企業というレッテルも貼られてしまいます。
ここで、改正前の公益通報者保護制度について見ておきます。通報者、通報内容、通報先、保護内容の4点を整理しておきましょう。
(1)通報者
通報者は「労働者」に限られます(改正前法2条1項2項)。この「労働者」には、正社員のみならず、アルバイト、パートタイマー、派遣労働者、取引先の社員・アルバイトなども含まれます。
(2)通報内容
通報する内容(通報対象事実)は、特定の法律に違反する犯罪行為などです(改正前法2条3項)。例えば、勤務先の役員や従業員が他人の物を盗んだり横領したりすること(刑法に違反)、勤務先の会社が安全基準を超える有害物質が含まれる食品を販売すること(食品衛生法に違反)などです。ちなみに、公益通報の対象となる法律は、2022年1月24日時点で480本あります。
(3)通報先
通報先は、①勤務先などの事業者内部(社内の相談窓口、管理職・上司、事業者が契約する法律事務所など)、②行政機関(通報された事実について勧告、命令できる機関)、③その他の機関や団体(報道機関、消費者団体、労働組合など)の3つです(改正前法3条)。
通報先で注意すべきポイントは、どこに通報するかによって、通報した労働者が保護されるための要件が異なるということです。
具体的には、①事業者への内部通報は、「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思われること」で足ります。これに対し、②行政機関への外部通報は、「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由」(真実相当性)が必要となります。さらに、③その他の機関や団体への外部通報は、真実相当性に加え、以下のうち1つの事由(特定事由といいます)があることが必要となります。
ⅰ、内部通報・行政通報では不利益な取り扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある。
ⅱ、内部通報では証拠隠滅などの恐れがあると信ずるに足りる相当の理由がある。
ⅲ、労務提供先から公益通報をしないよう正当な理由なく要求された。
ⅳ、内部通報を文書(電子的方式なども含む)でした日から20日を経過しても調査する旨の通知がないまたは正当な理由がないのに調査が実施されない。
ⅴ、個人の生命・身体に危害が発生しまたは発生する急迫の危険があると信ずるに足りる相当の理由がある。
内部通報の保護要件が緩やかで、報道機関や消費者団体などへの外部通報の保護要件が最も厳しいのは、公益通報により事業者の名誉や信用などの利益が不当に侵害されることのないよう、労働者に、まずは内部通報を検討することを促していると考えられます(ただし、各通報先に優先関係はなく、通報者は自らの判断で通報先を自由に選択することができます)。
(4)保護内容
上記の(1)から(3)の要件を満たす公益通報を行った通報者たる労働者は、次のように保護されます。
ア、解雇・解除の無効
労働者が公益通報をしたことを理由として、事業主が、その者を解雇することは無効となります(法3条本文)。
また、派遣労働者が公益通報をしたことを理由として、派遣先が、派遣元との労働者派遣契約を解除することは無効となります(法4条)。
イ、不利益な取り扱いの禁止
解雇のほか、従業員が公益通報をしたことを理由として、事業主が、当該労働者に対し、降格、減給などのほか不利益な取り扱いをすることは禁止されています(法5条)。
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執筆=上野 真裕
中野通り法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)・中小企業診断士。平成15年弁護士登録。小宮法律事務所(平成15年~平成19年)を経て、現在に至る。令和2年中小企業診断士登録。主な著作として、「退職金の減額・廃止をめぐって」「年金の減額・廃止をめぐって」(「判例にみる労務トラブル解決の方法と文例(第2版)」)(中央経済社)などがある。
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