――10月から消費税が10%に引き上げられた。期待された駆け込み需要の効果は前回の増税時ほどない。なぜだろう。増税のしわ寄せがじわじわと効いてきて、売り上げが伸び悩む。佐藤博社長が家族で経営する「佐藤釣具店」も、そうした影響を受けている中小店舗の1つだ。彼らは、売り上げ拡大につながる大きなチャンスを見逃していたことが分かった。
消費税増税が売り上げ拡大の逆風に
――10月中旬の閉店間際。店を手伝う孫の翔くんが、パソコンを使って9月分の売り上げに関する経理作業をしているところに、博社長が仕入れ先メーカーの商品説明会から帰ってきた。
博社長:来月、双葉フィッシングが面白い仕組みを取り入れたリールを発売するんだけど、できれば9月に出してほしかったな。駆け込み需要に弾みがついたかもしれなかったのに。翔、駆け込み需要はどんな感じだった?
翔:確かに少しはあったのかもしれないけど、通常よりほんの少し売り上げが増えたくらいだね。駆け込み需要といえるほどではないね。
博社長:えっ、そんなもの? ちょっとデータを見せてよ。
翔:ほら、9月の売り上げは去年とあまり変わっていないでしょ。10月に入った後の売り上げは低迷傾向かな。2%とはいえ増税されて、財布のひもが締まり気味みたい。
博社長:秋は気温がちょうどいいので、釣りに行きたくなる人も多いんだ。それを見越して仕入れを増やしているんだぞ。これじゃ、在庫が増えるだけじゃないか。やはり、消費税増税の逆風は厳しいということか。参ったな。
翔:前から言っているけど、売り上げを伸ばすためにQRコードを使ったスマホ決済を導入してみたら? 僕もそうだけど、みんなスマホ決済を気軽に使っているよ。コンビニなんかでもスマホの画面にQRコードを提示して、一瞬で買い物完了。財布を出さなくていいから便利だよ。
博社長:スマホ決済は…トラブルがあったりしたじゃないか。お客さまに迷惑がかかったら大変そうだし…。
翔:セキュリティをしっかり考えたものを選べば、心配する必要はないと思うよ。それに、スマホ決済などのキャッシュレス決済に関しては今、国が後押ししているみたいだし。今回の消費税の引き上げに当たって、“ポイント還元事業”がスタートしているんだ。うちみたいな中小事業者でキャッシュレス決済を使って支払えばポイント還元があるから、増税前より得することもあるんだ。
博社長:それは消費税の軽減税率が何たらかんたらとは違うのかい?
キャッシュレス決済のポイント還元で逆風に立ち向かえ
翔:全く別だよ! 軽減税率は生活に必要な食品などに対する税負担の軽減。今話したのはポイント還元。買い物をキャッシュレスですると、金額に応じてポイントが還元されるんだ。実質値引きされているのと同じだね。
博社長:そのポイント分は誰が負担するんだい? 消費税が増えて、ポイント分まで負担させられては商売にならないじゃない。
翔:その分を国が補助してくれるんだ。
博社長:補助?
翔:日本は外国に比べてキャッシュレス化が遅れているんだって。だから国がキャッシュレス化を進めようとしているの。消費税率のアップがあるから、景気対策も兼ねて、ポイント還元する制度をつくったんだ。すでに10月からスタートしているんだけど、中小事業者や小規模事業者はポイント還元率が最大5%もあるんで、うちみたいな中小の店にピッタリの制度なんだけどな。それを導入するための補助制度もあるらしいよ。
博社長:うーん、でもキャッシュレス決済の中でもスマホ決済というのはハードルが高いかも。どうやって始めていいか分からないし。それにポイント還元制度ってもう始まっているんだろう。今からでも間に合うのかな。翔、急いで調べてくれないか。自分でもスマホ決済を使っているくらいだから、理解も早いだろうし。
翔:分かった、やってみるよ。
しっかりしたサービス事業者に任せれば簡単
(数日後)
博社長:この前頼んだキャッシュレス決済のポイント還元や補助金とか、決済用端末のことは調べてくれたかな?
翔:調べた。ポイント還元制度の正式名称は「キャッシュレス・消費者還元事業」っていうんだ。期間は、2020年6月30日までの9カ月限定だけど、今からでも間に合うよ。
博社長:どんな制度なんだ?
翔:お客さんが、制度の対象となる中小・小規模事業者の店舗において、キャッシュレスで買い物をすると、購買額の最大5%をポイント還元する制度なんだ。つまり、うちの懐を痛めずに5%の値引きをしたような感じで販売できるんだ。
博社長:5%もポイント還元できれば、お客さんにとっては魅力的だから、売り上げも増えそうだな。次に、キャッシュレス決済の中でも最近はやりのスマホ決済についてだが、導入するにはお金がかかるんじゃないか?
翔:今回は、決済端末などに対する補助金制度もあるんだ。だから今がチャンスだと思うよ。最近は、フライやルアーをやる若者も増えてるでしょ。彼らを取り込むには、スマホ決済の導入が効きそうだよ。
博社長:それでキャッシュレス・消費者還元事業に参加して対象店舗になるには、どうすればいいの?
翔:まず制度への参加は、キャッシュレス決済サービスを提供している事業者に、「参加したい」と連絡して相談すればいいんだって。その事業者の中にはスマホ決済サービスを手掛けている事業者も含まれているよ。
博社長:??スマホ決済サービスを手掛けている事業者って何?
翔:クレジットカードもいろんな事業者があるでしょ。それと同じで多くの事業者がスマホ決済を手掛けているんだ。コンビニなんかが、「LINE Pay」とか「PayPay」とか、いろんな種類のスマホ決済が使えるのをお知らせしてるよね。
博社長:そんなにいくつも連絡するのは大変だよ。
翔:いくつものスマホ決済を、まとめて導入するのをサポートするサービスもあるよ。例えば、うちに電話やインターネットの件で、NTT西日本の営業担当者が顔を出すよね。「フレッツ・スマートペイ」っていうサービスを手掛けているから、彼に頼んだらどう?
博社長 あまりお金をかけたくないんだが、新たに何か用意するものはあるのかな?
翔:確かこの店のネット接続は、昔、ADSLを契約したままだったよね。それを光回線に変えるのは必要だと思う。でも後は補助金制度もあるし、お店にあるスマホかタブレットを活用すれば導入費用の低減が期待できるよ。(※)
※ 「フレッツ・スマートペイ」の利用には、フレッツ光等、プロバイダーの契約・料金およびWi-Fiルーターが必要。
博社長:でも、最近新しい機器の操作を覚えるのは大変なんだ。翔が店にいないときに対応できなくて困るかもしれない。経理の手間が増えるのも嫌だなあ。
翔:フレッツ・スマートペイは、いろいろなスマホ決済の事業者に対応しているけど、レジの対応の仕方は共通だから、操作は覚えやすいはず。お金のやり取りもNTT西日本に一本化できるし。お客さまへのポイント還元は各事業者がやってくれるので、経理の手間はほとんど増えないと思うよ。
博社長:それなら大丈夫かなあ…。
翔:しかもスマホ決済ができるようになれば、中国とか海外からのお客さんにもアピールできるよ。日本の釣り具は海外でも一流と認められているメーカーがたくさんあるからね。スマホ決済の導入で消費税率アップの逆風をはね返さなきゃ。
博社長:よし、双葉フィッシングの新型リールもあるし、ガンガン売っていこう!
※QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標です
※掲載している情報は、記事執筆時点のものです