脱IT初心者「社長の疑問・用語解説」(第81回)
成功するポイント?アクセスポイント
公開日:2023.09.29
税務調査は1年を通じて行われますが、国税当局の新事業年度である7月から12月末にかけては特に調査が厳しくなります。なぜなら、1月になると確定申告シーズンに入り、3月15日まで税務調査に関する動きが鈍くなるからです。また、4月から6月は次年度の人事に関する評価に結びつきにくいため、調査官は年間の調査の目標件数達成に力を注ぎます。この間は調査を長引かせないで早く終了させようとする傾向が強いのです。このため、7月から年末にかけて税務調査の依頼が来たら、心して対応することが肝要です。
法人の税務調査は、「法人税」「消費税」「源泉所得税」および「印紙税」「国際関係」にまで対象が広がりますが、調査では必ず領収書や請求書をチェックします。これらは取引の発生を証明し、取引上の証拠物件としての役割を果たす重要書類ですから、架空・仮装の両面からチェックします。
企業が架空仕入を計上する場合、領収書だけを取引先に作ってもらったり、取引先から用紙だけもらって自前で作成したりする場合があります。この場合、「仕切書」や「請求書」までは作っていないケースが多いため、調査官は領収書や請求書などについて、
・汚れや折り目のない市販の領収書である
・領収書名がゴム印で押されている
・領収者印が摩滅していない
・取扱者印がない
・割り印がない
・発行番号がない
などについて注意深く確認します。
領収書については、仕入先と通謀して架空仕入を計上し、領収書などを偽造している場合もあるため、同一時期に発行された領収書との間に相違する点があるかどうかも入念に確認していきます。
また、棚卸資産も税務調査の重要項目です。多くの企業は商品を仕入れ、または製品を製造してこれらを販売して利益を上げています。売れ残りは在庫として保管します。在庫を含め、製品または半製品などを「棚卸資産」といいますが、当期の売上原価を算出するためには、期首および期末の棚卸資産や仕入高を計算する必要があり、棚卸資産は極めて重要な項目です。
そのため、税務調査では棚卸資産を重点的に確認します。棚卸資産は業種ごとに算出方法が違ってきます。
<製造業>
・材料(直接材料、間接材料の期末残高)、消耗品(梱包(こんぽう)資材、機械修繕部品、未使用金型、燃料等の期末残高)
・仕掛品(期末仕掛中のものについて、仕掛割合に応じて評価)
・製品(出荷または客先検収前の期末残高)
・商品(他から購入した商品の期末残高)
・貯蔵品(スクラップ、パンフレット、印紙等の期末残高)
<卸・小売業>
・商品(他から購入した商品の期末残高)、自社製造の場合は製造業に同じ
・貯蔵品(包装材料、パンフレット、印紙等の期末残高)
<建設業>
・材料(未使用材料の期末残高)
・未成工事支出金(未成工事に係る材料費、労務費、外注費、経費)
*設計関連費用の配賦も必要
・貯蔵品(スクラップ、印紙等の期末残高)
<運送業>
・消耗品(車両修理部品、未使用タイヤ、燃料等の期末残高)
・貯蔵品(スクラップ、印紙等の期末残高)
<情報サービス業>
・未成業務支出金(未成のソフトウエア制作に係る人件費、経費)
・貯蔵品(用紙等、印紙等の期末残高)
製造原価等における棚卸資産の計上は一般的に誤りも少ないですが、売上原価における棚卸資産の計上、特に情報サービス業などの棚卸資産の計上漏れは多く見受けられます。税務調査においては、以上のような点において漏れがないか、適正に処理できているかについて確認します。
売掛金も税務調査のチェック項目の一つです。
代金を回収できていなくても、税額計算においては、売り上げを現金の授受とは切り離して考えるため、サービスを提供もしくは商品の受け渡しが完了した時点で、売り上げを計上しなければなりません。その結果、納付すべき税金を納めていないというケースがよくあります。税務調査では、売上総利益率(粗利)を分析し、特に期末までの売掛金に漏れがないか、売上除外をしていないかなどを重点的に確認します。
さらに貸し倒れの有無についても必ずチェックします。売上計上しているのに回収ができていない状態ならば、いわゆる不良債権です。不良債権であれば、経理上は貸倒損失処理しますが、税務上は貸倒処理できるケースが限られています。客観的な基準を設けて、それに合致するものだけが損金算入できるため、税務調査ではそれに合致しているのかを確認します。
確認のポイントは「法律上の貸し倒れ」かどうかの判断です。債権の全部または一部が法的手続きにより切り捨てられたものか、具体的には①会社更生法、民事再生法、特別清算等によって、切り捨てられることとなった金額、②関係者の協議決定によって、切り捨てられることとなった一定の金額、③債権者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額について確認します。
この部分は、法的整理や書面による債務免除の場合の貸倒損失計上になります。このほか、「明らかに回収できない事実上の債権の貸し倒れ」についてもチェックします。担保物がない場合に限られますが、債務者の資産状況、支払能力などからその全額が本当に回収できないのかを確認をします。
なお、売掛金、貸付金等の金銭債権などは法律上の貸し倒れおよび事実上の貸し倒れの対象となりますが、「形式上の貸し倒れ」は売掛債権のみが判定の対象となり、貸付金およびその他これに準ずる債権は形式上の判定の対象となりません。この売掛債権には、通常売掛金といわれない未収加工料、倉庫業等における未収保管料等営業上の債権は含まれますが、たまたま行われた固定資産の譲渡等による未収金等は含まれないことになります。
また、「一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸し倒れ売掛債権」についても確認します。ポイントは、①債務者との取引を停止した時から1年以上経過しているか、②債権額が取り立てのための旅費その他の費用に満たない場合で、債務者に対し支払いを督促したにもかかわらず弁済がないのかなどについて確認します。
執筆=一般社団法人租税調査研究会
一般社団法人租税調査研究会(https://zeimusoudan.biz/about)
法人税、源泉所得税、所得税、消費税、印紙税、資産税、酒税・揮発油税、関税、国際税務、公益法人、査察、事務訴訟などの各税務分野の国税出身税理士を招集し、会計事務所向けに相談・教育等を手掛ける団体。現在、在籍する研究員・主任研究員は55名。会員会計事務所は約100会計事務所。
主な著書、『一冊ですべてわかる!暗号資産の税務処理と調査対応のポイント』(第一法規)、『国税OB税理士による 税務調査のすべて』(大蔵財務協会)、『加算税の最新実務と税務調査対応Q&A 判決・裁決・事例で解説』(大蔵財務協会)、『税目別ケースで読み解く!国際課税の税務調査対応マニュアル』(ぎょうせい)等多数。
監修・編集=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会専務理事・事務局長。株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役、TAXジャーナリスト、会計事務所ウオッチャーとして活動。元税金専門紙・税理士業界紙の編集長。
【T】
税理士が語る、経営者が知るべき経理・総務のツボ