2015年10月にマイナンバーの通知が開始され、2016年1月からマイナンバーカードの交付が開始。そして2021年10月にマイナカードの保険証利用すなわち「マイナ保険証」が始まっている。2023年4月には医療機関などでマイナ保険証が義務化(経過措置あり)、そして2024年秋ついに紙の健康保険証が廃止され、全面的にマイナ保険証に切り替わる、流れだ。
マイナカードについてはさまざまなトラブルや不具合が続いているのは周知のとおりだ。そんな中で、果たしてマイナカードが、医療を受けるための大切な健康保険証となり得るのか、との不安はある。今まで起きたような不具合により、資格確認ができず適切な医療が受けられなかったら、もしくは保険制度が適用されず高額を請求されたら、など誰しも心配するところだ。筆者自身も、行きつけの医院に行くたび、カウンターに置かれているカードリーダーにマイナカードを通しているが、紙の保険証も出すよう言われることに加え、筆者の他にカードリーダーを通す人も見かけないので、実用にはまだまだな状況をつぶさに感じる。
そんな中、8月4日の記者会見での岸田首相の「日本はデジタル後進国」という発言が話題となった。会見全文は首相官邸「岸田内閣総理大臣記者会見」から参照できる。これによると会見は「デジタル化推進に向けた決意とその前提となるマイナンバーカードに対する国民の信頼回復のための対策について、説明をさせていただく」との目的という。
冒頭に「マイナンバーの紐(ひも)付け誤りをめぐって国民の皆様の不安を招いていることにおわびを申し上げます」と述べ、既に発表している「信頼回復のための3つのポイント」(「個別データの総点検」「再発防止の徹底」「デジタル化への理解促進とマイナ保険証への不安払拭(ふっしょく)」)を徹底し、国民の信頼を取り戻した上で、わが国にとって必要不可欠であるデジタル改革を本格的に進める、と発言した。
首相は2020年、政調会長としてコロナとの闘いの最前線に立ったとき、欧米諸国やアジア諸国などで円滑に進む行政サービスがわが国では実現できない現実に直面、わが国が「デジタル後進国」だったと気づき、がく然としたという。この「デジタル敗戦」を二度と繰り返してはならない、主要先進国に大きく後れをとる行政のデジタル化の遅れを早急に取り戻したい、という強い思いで、デジタル田園都市国家構想やマイナカードの早期普及を進めてきた、と語った。
その上で、「現行の保険証を来年秋に廃止するのは乱暴ではないか」「廃止ありきではなく、国民の理解が必要だ」という国民の声があることにも触れ、とにかくマイナカードをめぐる一連の事案発生以来、国民の不安払拭(ふっしょく)のための措置が完了することが大前提だ、とする。さらに、必要なときに必要な医療にアクセスできる医療保険制度は、国民生活の安心そのものであり、その信頼を揺るがすことはできないとし、現行の健康保険証の廃止の際は、すべての国民が円滑に医療を受けられるよう、マイナ保険証を保有していない人全員に「資格確認書」を発行、きめ細かい対応を徹底する方針を述べた。
ただし、首相は基本的に現行の健康保険証の廃止時期の延期は考えない、との方向も示す。会見時のプレス質問にも「健康保険証の廃止の時期の見直しありき」とは考えず、「デジタル改革の流れは止めず、マイナ保険証の円滑な移行を図る」方針をとるという。今後もその動きに注目していきたいところだ。
利用方法や手続き。デジタル化が遅れた現状と政府方針とのギャップ
マイナカードの申請がまだの場合は、先述の「マイナカード総合サイト」の「申請方法」を参考に申請するとよいだろう。オンライン申請(パソコン、スマホから)、郵便による申請、まちなかの証明写真機から行える。おすすめはお届け期間が短くて済むオンラインまたは証明写真機だ。
マイナポイントの申し込みは、9月いっぱいが締め切りとされているので、申請を行っていない場合は早めに進めるのがよいだろう。申請期間は何回か延長されているものの、「これが最後」とうたわれている。なお、マイナポイントは「健康保険証としての利用申し込み」にも付与される。先述のようにカードを作っても、利用申し込み手続きをしないと健康保険証としては利用できないので注意したい。
少し話を戻すが、首相会見を見渡すと、果たしてこれで「誰一人取り残さない」、人にやさしいデジタル社会が実現できるのか、とやや拙速に感じる面もある。「デジタル後進国」から「デジタル先進国」に変わるのは並大抵ではない。地道に一歩一歩着実に進める姿勢がないと、とも思う。また、「マイナカード制度への不信感を抱く」などで、マイナカードを自主返納する人が増えている、という話題もあり、その対応を巡っては政府の方針にも若干の懸念を覚える面がある。現在のマイナカードの申請・交付・保有状況は総務省の「マイナンバーカード交付状況について」から参照できるが、ここには返納数は書かれていない。報道によっては返納数の累計が「およそ47万件」にのぼるという。
さらに、返納者の情報はシステム内の連携がとれず、「資格確認書」が届かない可能性がある、という気になる話題もある。実際に国会議員の「マイナンバーカードを返した方にも自動的に資格確認書は送られるか」との質問に、「カードを返した先は地方公共団体である市町村のため、健康保険組合としては返したかどうか分からない」と厚労省等の官僚が回答するやりとりが公開されており、こうした動向にも注目していきたい。
デジタル社会では、情報がミスなく整理・入力され、データの大切さへの理解のもと適切に管理され、厳重なセキュリティにおいて安全に保管される必要がある。こうしたデジタルの「基本」のもと、政府や自治体のスタッフ全員が責任感と義務感をもって、データ入力や管理を行っているのか、と不安にもなる。そもそも適切に行っていれば、こんな事態に陥ってはいないはず……、と思う部分も少なからずあるからだ。
今後どうなるのだろうか、傾向と対策
マイナカード返納者について、その資格確認書が届かない可能性の件は、あくまで一例にすぎない。厚生労働省は6月「マイナ保険証」において別人の情報を間違って本人の資格情報にひも付ける「誤登録」が2021年10月から2023年5月22日までに7372件見つかったと発表した。さらに、マイナ保険証を医療機関の窓口で使う際、本来とは違う患者負担が表示されるトラブルも相次いでいるという。
全国保険医団体連合会の「10000医療機関が回答 マイナ保険証」では、65%の医療機関が「トラブルがあった」と回答、さらにトラブル時、すぐに対応できなかった事例が「あった」との回答も40%を占めている。マイナ保険証のトラブルのために適切な医療を受けられない状況は、何としても避けなければならないだろう。
マイナカードおよびマイナ保険証については、今後も動きが続く可能性があるだろう。この状況で来年秋の「予定」にこぎ着けるのか、と不安を感じる人も多いはずだ。しかし、私たちはこの状況を、歯がゆさを感じつつも「誰一人取り残さない」「人にやさしい」というコンセプトを信じて注視するしかない。場合によっては来年秋の「予定」が土壇場で延期される可能性もある。制度そのものの大きな変更もあるかもしれない。最新の情報をチェックしつつ、大きな視野と広い心で、自分と自分の家族、周りの人々、そしてすべての人々の幸せを望みつつ、良識をもって対処していこう。
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