みなさんは、政治や経済に関する記事に、「〜する方向で検討に入った」とか、「〜の方針を固めた」といった表現が多用されていることにお気付きでしょうか。「〜に向けて最終調整している」という表現もよく出てきます。
ほとんどの人は、いずれも「〜することがほぼ決まった」という意味だと、区別せずに受け取っているのではないでしょうか。
ところが、新聞記者はそれぞれの表現を使い分けています。明文化されているわけではないのですが、新聞記者の間では「こういう状況ではこの表現を使う」という一種のルールが共有されているのです。
<表現の例>
「〜の方向で検討に入った」=組織の一部で検討が始まっているが、計画が変更されたり中止されたりする可能性もかなりある
「〜の方針を固めた」=最終の手続きに向けて詳細が煮詰まっており、計画の一部が変更される可能性はあるものの実現性は極めて高い
「最終調整に入った」=「根回し」などを含む手続きは未了だが、あと一歩の段階に進んでいる
「〜することを決めた」=組織決定が終了した
こうした表現の意味を知っていれば「この話はまだ生煮えで、実現しない可能性も少なからずあるな」などと、報じられた内容の進捗状況や実現性を判断することができます。
新聞の「責任」
しかし、こうした知識がなければ「大新聞が1面のトップで報じているのだから、明日にも実現するはずだ」と単純に考えてしまうでしょう。もし実現しなければ「誤報だ」「根拠もなく書いたな」と思ってしまうかもしれません。
実際、ネット上の書き込みを見ているとそう判断されている例が多いようです。しかし、同じ記事をプロが読むと、そもそも実現性が低いことが分かる表現が使われていたりするのです。
知られざる新聞表現のルール… 続きを読む
執筆=松林 薫
1973年、広島市生まれ。ジャーナリスト。京都大学経済学部、同大学院経済学研究科修了。1999年、日本経済新聞社入社。東京と大阪の経済部で、金融・証券、年金、少子化問題、エネルギー、財界などを担当。経済解説部で「経済教室」や「やさしい経済学」の編集も手がける。2014年に退社。11月に株式会社報道イノベーション研究所を設立。著書に『新聞の正しい読み方』(NTT出版)『迷わず書ける記者式文章術』(慶応義塾大学出版会)。
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