2019年9月、大阪市出身の女子プロテニス選手大坂なおみさんに大阪府知事から「感動大阪大賞」、大阪市長から「市長特別表彰」が贈られた。よくぞ、今、贈っていただいた!と、賞の贈呈を伝える記事を読んで膝を打ったものである。世界ランキング1位になった後、一度もトーナメントの決勝まで進んでいない大坂なおみ選手がずっと気掛かりだったからだ。
破竹の勢いで女子プロテニスの頂点まで上り詰めた大坂選手には焦りや戸惑いもあることだろう。でも、アスリートとしてのキャリアはまだまだこれからなのだ。それを裏付けるために、大坂選手の少し前のテニス界を華やかに駆け抜けた伊達公子さんにスポットを当ててみたい。
1970年に京都市で生まれた伊達さんは、高校時代にインターハイで3冠を達成。卒業後の1989年にプロとしてのキャリアをスタートさせた。彼女の武器は、ライジング・ショット(相手が打ったボールが自陣でバウンドした直後に打ち返す技術)に象徴されるスピーディーな展開。同年には早々と全仏オープンで海外デビューを果たし、続くウィンブルドンと全米オープンでは本戦出場を成し遂げた。
その後も海外でグランドスラムをはじめとする大会で世界の名だたる強豪選手を相手に善戦。時に圧倒し、95年11月には世界ランキング4位のポジションを得ている。
しかし、自身最高ランクに上ってから1年もたたない96年9月、その輝かしい戦績に突然ピリオドを打った。全盛期と認識していたトッププレーヤーの決断に世間が驚く中、引退を表明し、コートを去ったのである。
11年半のブランクを経て現役復帰
しかし、物語は終わらなかった。2008年4月、伊達さんは現役復帰を表明した。引退発表してから11年半が経過していた。
11年半!
トップアスリートにとっては100年にも相当すると思われるブランクを経て彼女は再びラケットを手にすることを決意する。しかもプロとして全日本選手権に出場することを目標に掲げたのだ。
復帰の1つのきっかけは、同年3月に開催されたシュテフィ・グラフさんとのエキシビション・マッチだったという。
「先日のドリームマッチに向けて昨年の9月頃から練習を繰り返す中で、引退してからこれまでに感じたことのない気持ちの揺れを幾度となく感じていることに自分自身で気づきました。」
(『Ðate of ÐATE 伊達公子の日々』 伊達公子、金子達仁著)
その揺れた気持ちが最終的に向かったのは、プロとして真剣勝負のテニスコートに立つことだった。そして実際、復帰したその年に全日本テニス選手権シングルスで16年ぶり、3度目の優勝を飾ったのだ(ダブルスも優勝)。
再チャレンジする意欲を評価する大切さ… 続きを読む
執筆=藤本 信治(オフィス・グレン)
ライター。
関連のある記事
連載記事≪アスリートに学ぶビジネス成功への軌跡≫
- 第1回 身体能力は高くなかった遠藤保仁が代表になれた秘訣 2018.07.30
- 第2回 五輪連覇の羽生結弦はヘコみながらも挑戦を続ける 2018.08.27
- 第3回 パイオニア、大谷翔平の活躍に見る人材活用術 2018.09.19
- 第4回 競馬界のレジェンド武豊が勝ちを積み上げられる理由 2018.10.24
- 第5回 イチロー。究極のルーティンがもたらす意識改革 2018.11.29
- 第6回 なでしこのエース 澤穂希を生んだサポーターの存在 2018.12.26
- 第7回 相撲と向き合う白鵬の姿に学ぶ異文化理解の大切さ 2019.01.31
- 第8回 東京五輪の華、東洋の魔女たちと鬼の大松監督の絆 2019.02.28
- 第9回 F1の皇帝 ミハエル・シューマッハの組織掌握力 2019.03.28
- 第10回 不死鳥ウッズが教える自己の強みを知る大切さ 2019.04.25
- 第11回 自転車競技の英雄 中野浩一氏の背中を押した使命感 2019.05.30
- 第12回 陸上の新星、サニブラウンが見据えるゴール 2019.06.27
- 第13回 車いすテニス 国枝慎吾、王者陥落後に見せた真価 2019.07.25
- 第14回 やり投げの溝口和洋 幻の世界記録を生んだ挑戦 2019.08.29
- 第15回 伊達公子の復帰に学ぶキャリア採用の心得 2019.09.26
- 第16回 F1中嶋悟、海外レースで体現した美しい日本人らしさ 2019.10.24
- 第17回 前畑秀子。女性初の金メダリストを生んだ孤独な闘い 2019.11.28
- 第18回 ミスター・ラグビー平尾誠二を創った3人の指導者 2019.12.26
- 第19回 江夏豊 球史に刻んだ名投手の「熱血」と「円熟」 2020.01.30
- 第20回 馬術唯一の金メダリスト、バロン西の華麗なる足跡 2020.02.27
- 第21回 今宮純 モータースポーツジャーナリストという矜持 2020.03.26
- 第22回 マラソンで五輪連覇「裸足の哲人」アベベ・ビキラ 2020.04.23
- 第23回 9個の金メダルに輝く陸上のスター カール・ルイス 2020.05.21
- 第24回 女子バレーの名セッター、竹下佳江の新たな挑戦 2020.06.18
- 第25回 サイレンススズカ どこまでも逃げ切る夢のブランド 2020.07.16
- 第26回 球界の不世出のスター・長嶋茂雄の熱いプロ意識 2020.08.20
- 第27回 体操の「白い妖精」ナディア・コマネチのそれから 2020.09.17
- 第28回 インディ500で2度目の優勝!佐藤琢磨の突破力 2020.10.22
- 第29回 北海道日本ハム 栗山英樹監督と「夢の球場」 2020.11.26
- 第30回 オートレーサー森且行が咲かせた美しい大輪の花 2020.12.24
- 第31回 ディエゴ・マラドーナ サッカーの神様に愛された男 2021.01.28
- 第32回 射撃競技の日本人唯一の金メダリスト 蒲池猛夫 2021.02.25
- 第33回 100m背泳ぎ 鈴木大地の柔軟さと大胆さ 2021.03.25