外箱に牛のマークが印刷された「牛乳石鹸」を、子どもの頃から使い続けている人も少なくないのではないでしょうか。牛乳石鹸共進社の代表的な商品である「カウブランド赤箱」(以下:「赤箱」)や「カウブランド青箱」(以下:「青箱」)を目にした経験は誰も持っていると思います。「赤箱」は発売から90年以上、戦後に発売された「青箱」も70年以上愛され続けている、せっけんのロングセラー商品です。

牛乳石鹸共進社の創業は、1909年。宮崎奈良次郎が大阪で共進舎石鹸製造所を立ち上げたのが始まりです。当時はせっけんが日本の輸出産業に育っており、大阪はせっけん製造の中心地でした。その頃のせっけんビジネスでは問屋の力が強く、多くのせっけん業者が問屋から生産を請け負っていました。
奈良次郎も、問屋の商標による生産を請け負っていました。今でいうOEM(Original Equipment Manufacturer)です。その中の1つに、佐藤貞次商店の牛乳石鹸がありました。そして、奈良次郎は1928年、佐藤貞次商店から牛乳石鹸の商標を譲り受け、自社ブランドとしての製造販売をスタートさせます。これが「赤箱」の始まりです。
太平洋戦争で工場は全焼してしまいますが、戦後、社員一丸で工場再建に乗り出し、生産を再開。1949年には「青箱」の販売を始めました。スクワランといううるおい成分を配合した「赤箱」がしっとりとした洗い上がりなのに対し、「青箱」はさっぱりと洗い上がるせっけんです。「青箱」は特に関東エリアで人気商品となり、今でも関西では「赤箱」、関東では「青箱」の販売数が多くなっています。
そして、牛乳石鹸の知名度を大きく上げることに貢献したのがラジオとテレビの広告です。1951年に始まった民間ラジオ放送で、共進舎は「歌謡50年史」という番組のスポンサーになりました。牛の鳴き声で始まるこの番組は人気番組になり、全国に牛乳石鹸の名を広めます。
さらに、1961年からはテレビの「シャボン玉ホリデー」のスポンサーになりました。民放初のカラーミュージカルとして大ヒットしたこの番組は共進舎の一社提供だったため、牛乳石鹸が強く印象付けられることになります。この番組は11年続く長寿番組となり、牛乳石鹸を、日本人なら誰もが知っているブランドに押し上げました。
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執筆=山本 貴也
出版社勤務を経て、フリーランスの編集者・ライターとして活動。投資、ビジネス分野を中心に書籍・雑誌・WEBの編集・執筆を手掛け、「日経マネー」「ロイター.co.jp」などのコンテンツ制作に携わる。書籍はビジネス関連を中心に50冊以上を編集、執筆。
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