日本の企業で「脱・自前」が進行してきている。背景は深刻な人手不足だ。外部に業務を頼まなければ、事業がこれまでのように立ち行かないからだ。少し前までは、人手不足は景気回復局面での現象と捉える向きもあったが、労働人口減が切実となり、政府主導で解決に取り組まなければならない段階に来ている。
人手不足の進行とともに、企業課題となるのが生産効率のアップだ。日本人は勤勉なのに、生産性が低い。2018年12月に公表された日本生産性本部のプレスリリースによると、日本の労働生産性はOECD加盟36カ国中20位。2017年から順位を上げられずに低迷している。その原因は、日本企業がイノベーションを起こせないからだとの指摘もある。日本は長らく自前主義の歴史をたどり、イノベーションに必要な異業種交流や多様化を、大の苦手としてきた。
働き方改革関連法成立。中小企業にも変化が求められる
2018年に成立した「働き方改革関連法」も、長時間労働や雇用形態による格差是正とともに、生産性を高める狙いがある。3つの柱の1つ「高度プロフェッショナル制度(労働時間規制適用除外制度)」は、時間ではなく成果に給与を支払うスタイルへの移行を促すものだ。時間に縛られない働き方で、効率的に成果を上げられる仕組みとして期待される。
そうすると、企業にはこの制度への対応に助言する専門家が必要になる。今、特に中堅・中小企業で社会保険労務士(社労士)人気が高まっている。社労士は、定年後のシニアの働き場としても活況だという。限られた時間で結果を出す取り組みが遅れがちだった中小企業にも、大きな変化が求められるのは必至なのだ。
リソース不足を派遣や契約という非正規雇用で補っていた場合には、今回の法改正「同一労働同一賃金」に抵触する可能性が出てくる。政府は雇用形態に関わらない公正な待遇の確保を実現し、「『非正規』という言葉をこの国から一掃する」と意気込む。当然ながら企業は、法の施行時に対応がきっちりとできるよう、今から検討を始めなければならない。
そこで浮上する選択肢が、専門業者へのアウトソーシングだ。業務のアウトソースならば、自社にスタッフを抱えなくてよい。専門化したアウトソーサーは、その分野のプロともいえる。固定費負担を避けられるとともに、3本柱の1つ「残業時間規制」への対策としても、大いに有効なのは言うまでもない。
クラウド利用でITベンダーの脱機器売り化。保守サービス多様化…
図らずも働き方の改革に呼応する形で、OA機器メーカー、通信キャリア、地場ITベンダーも、その存在意義を変化させている。これまでの彼らは受託型のビジネスモデルといえ、ツールやIT機器販売を主業務としてきた。しかし、IT機器導入で生じる機器サポートを「付加価値」とし、差別化・脱コモディティー化・顧客接点の継続化を見据え、新たなサービスを展開したり、業態をシフトさせたりしている。
クラウドサービスが一般化し、遠隔監視や遠隔操作が技術的にできるようになったのも、業態シフトの後押し要素として大きい。また、クラウド型のサービス提供は、「月額料金」という概念を一般化し、事業として利用期間に応じて代金を支払う、いわゆる「サブスクリプションモデル」の実現を可能とした。“売ったら終わり”のビジネスモデルから、継続的にさまざまな価値を提供する「伴走スタイル」への変化である。
業態シフトの変化で、当初はあくまで機器に付帯する保守サービスレベルのものが、顧客課題の解決を担うまでに拡張している。特にITに詳しい人材を自社で囲うのが難しい中堅・中小企業にとっては、ICT環境のライフサイクルを、トータルで管理・運用・支援してもらえるのはメリットが大きい。ベンダー側にとっては、従来、営業マンが担っていた顧客接点を維持・補強でき、ユーザーの囲い込みにつながる。
リコーの「マネージドITサービス」、大塚商会のコンサルティングサービスなどは、その代表格といえる。KDDIは中小企業向けに、人材を含むサポート系業務機能を子会社化。KDDI まとめてオフィスを2011年に設立した。ネットリソースマネジメント(NRM)は、情報通信コンサルタント集団のフォーバルと、ネットワークソリューション事業およびシステムインテグレーターのサクサが共同出資した、オフィスのIP環境を把握・管理するサービスを提供する会社だ。2013年に設立された。
NTT西日本では、各事業領域でサポート業務を付帯させる。オフィス回りでいうと、回線としてのサービスは「フレッツ光」だが、サポートサービスに「24時間出張修理オプション」がある。電話機には「ビジネスフォンサポート」、複合機には「カウンタ保守サービス」、Wi-Fiは「スマート光ビジネスWi-Fi」、ルーターは「ルーターおまかせプラン」、UTMは「セキュリティおまかせプラン」、さらにIT資産全般を管理・サポートする「オフィス安心パックIT管理サポート」といったサポート系・アウトソーシング系ラインアップがそろう。
今後、これらのメニューも、トータルで捉えるようなプランに進化する可能性が考えられる。広い顧客基盤と豊富な保守インフラを保有するNTT西日本に、“自社のIT管理・運用をアウトソースする”といった選択肢も出てくるのではないだろうか。
専門業務は、餅は餅屋。積極的なITアウトソーシングを
ICT環境を1社で総合的に把握・管理してもらえば、何かがあったときでも迅速な原因究明と対処が可能となり、その結果、業務を早期復旧できる見込みが高まる。また、自社に合った最新のICTを活用した業務改善提案が受けられれば、会社の生産性向上を実現する具体的な手法についても検討を進められるだろう。
企業を取り巻く環境や、ITの進化・変化のスピードが速くなると、技術、知識はすぐに陳腐化してしまう。常に最適な人材を新たに確保し続けるのは、コストの面からも非常に難しい。
事業の収支は、支出に対してそれ以上のリターンを求める計算で成立する。これからはそれに加え、業務を雇用で実現した場合と、アウトソーシングした場合を比較検討すべきだ。大きな戦略は、リターンをすぐに得にくい。コスト計算を2年3年スパンで考え、時代の変化に対応する力を外部活用で得るようにしたい。
業務のアウトソーシングとは、“質の担保された作業”と“人材の確保、育成”を社外にお願いすることと同義だ。社内で人を育てるには時間と労力が必要だ。異動や退職などで人は入れ替わる。育成には終わりがない。目には見えないコストがかかっているのだ。それなら多少、見た目のコストがかかったとしても、プロにお願いする選択肢も経営者は視野に入れるべきではないだろうか。
イノベーションを起こさないと、社会全体が早晩立ち行かなくなる可能性すらある。パラダイムの転換期に来ていると言っても過言ではない。所有から利用へ。この流れは何も車や住宅だけの話ではない。会社の戦力に関しても当てはまる。この流れが拡大すれば、自社のみならず、社会全体の総合的な生産性アップにつながっていく。「日経コンピュータ(日経BP)」の調査によると、ITアウトソーシングを「利用している」と回答した企業は、2017年では48%だったが、18年には60%に増加している。
“必要なときに必要なパーツを外部に求める”流れは、着実にその領域を広げつつある。アウトソーシング需要の拡大は、ごく自然な潮流といえるだろう。
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