MIT×デロイトに学ぶ DX経営戦略(第6回)デジタル時代のリーダーシップと人材を再考する

業務課題 経営全般 デジタル化

公開日:2021.12.13

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 リーダーシップ。「リーダーシップ」という言葉は、私たちに力強い印象を与える。私たちはその概念を、戦士や政府の役人、官僚から政治活動家、CEOまで、実在であれ架空であれ、さまざまな種類の人物と結びつけている。この人だったら、いついかなるときでも、どこへでもついて行こうと思えるリーダー像を、誰もが抱いている。それが個人的経験や事実に基づく場合もあるが、多くは一個人について出来上がった虚像で、時間とともに尾ひれが付いたものだ。アマゾンを見てみれば、リーダーやリーダーシップについて書かれた本がごまんと見つかる。その多くは、リーダーシップについて知られざる秘密を伝えるとうたっている。例えば、『アッティラ王が教える究極のリーダーシップ』(ダイヤモンド社)や、『「最高のリーダー」の秘訣はサンタに学べ』(文響社)まで、このジャンルの本は多岐にわたる。

 私たちがリーダーシップに強い興味を抱くのも驚くには及ばない。破壊と急激な変化の時代に、忍耐力を引き出し成功へと導いてくれるリーダーに、人は憧れるものだ。騒然としたビジネス環境で組織が足場を探すとき、組織を新しい現実に導くずばぬけたリーダーが必要になる。リーダーには、人が集まるビジョンを生み出すことが求められるだけではない。最高の人材を引きつけ、その中でもさらに最高の人たちを取り込むことによって、デジタル面の成熟を可能にする状況を作り出すことも求められる。だが、デジタル面の成熟を急ぐ私たちに自動車王のヘンリー・フォードや、インド独立の父であるマハトマ・ガンジー、至言に満ちた英政治家のウィンストン・チャーチル、はたまた指導者としてNBAを幾度も制覇したフィル・ジャクソンが必要なのかどうか、ぜひとも知りたいところだ。

デジタルリーダーシップの課題

 デジタルディスラプションに関わる急激な変化は、リーダーシップの性質について私たちが認識する概念に疑問を抱かせ、混乱を引き起こしかねない。多くの人は、時代が異なれば異なるタイプのリーダーが求められると、固く信じている。戦時中は、平和時と異なるリーダーが国家に必要になる、好景気には、経済危機のときとは異なるリーダーが国家に必要になる、という具合に。

 だが、本当にそうだろうか?リーダーシップの本質はデジタル時代において、変化するのだろうか?本当にリセットボタンを押す必要があるのだろうか?あるいは、高まる不確実性のせいで、私たちは本質的要素を忘れて、最新のきらびやかに輝くものに目を奪われているのだろうか?

 デジタルディスラプションで求められるものと緊密に結びつく特徴もあるが、一度、効果的なリーダーシップの特徴の一部は変化していないと仮定してみよう。問題となるのは、どちらがどうなのかということだ。つまり、効果的なリーダーシップのどの原則がデジタルディスラプションに左右されないのか、そしてどの原則がこれに適応する必要があるのか? 今までうまくいっていたことを堅持すべきときはいつか、そしてリーダーシップの教則本を更新すべきときはいつなのか?ということである。

「遺伝子型」と「表現型」

 効果的なリーダーシップの特徴の中で、どの特徴が時代を超えても変わらず、どの特徴がデジタル環境に適合する必要があるか。この問いに答えるために役立つ方法を生物進化論が示してくれる。進化論の世界では、チャールズ・ダーウィンが重鎮として存在感を放っている。自然淘汰や適者生存のような説は、1859年に出版されたダーウィンの有名な『種の起源』で最初に発表された。一方で、ウィルヘルム・ヨハンセンの名を知っている人ははるかに少ない。ヨハンセンはデンマークの植物学者で、一九世紀後半から二〇世紀初頭にかけて植物研究を行った。彼は、同一の遺伝子を持つ種から大型または小型の植物を作り出すことが可能だと、結論を下した。この現象を説明するために、「遺伝子型」と「表現型」という用語を画期的な論文(と、のちに出版された著書)で発表し、これは遺伝学の基礎を説く教科書となった。

 ヨハンセンは、生物が持つ遺伝子を表現するために、「遺伝子型」という用語を使った。遺伝子型は生物の遺伝学的設計図である。受精時に確定し、生物の一生涯にわたり変化することはない。これと対照的に、「表現型」は生物の物理的特徴を表し、その特徴は遺伝学的設計図と環境の相互作用に起因する。環境次第で、同じ遺伝子型がまったく異なる表現型の特徴をもたらす可能性がある。例えば、長身の遺伝子を持っている人物でも、その身長は、食事や気候、病気、ストレス、その他環境的要因にも影響を受ける。

 これは、デジタルリーダーシップの性質を理解するにはうってつけの例えである。ただし、私たちは決して個人の遺伝子に言及しているのではなく、優れたリーダーの特質に言及しているという点に気を付けてもらいたい。力強いリーダーシップとは学習可能な特質であり、持って生まれたもの、生来持ち合わせているものではないと、私たちは考える。遺伝子型あるいは設計図は、効果的なリーダーシップのために目的を授ける、社員を鼓舞する、コラボレーションを促すなどの一連の特徴で構成される。こうした特質は、どんなときも優れたリーダーシップの本質であり、優れたリーダーシップの設計図を今後も定めるだろう。しかし、こうした基本的な特質は、デジタル環境においては、従来の環境とは異なる形で表現されることになる。

デジタルリーダーシップの3つの誤解…

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訳者=庭田 よう子

翻訳家。慶應義塾大学文学部卒業。おもな訳書に『目に見えない傷』(みすず書房)、『ウェルス・マネジャー 富裕層の金庫番』(みすず書房)など。

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