ビジネスを加速させるワークスタイル(第15回)
似ているようで違う、法人向け光回線の選び方
公開日:2023.08.03
本連載は前回から第2ステップ、「人員配置の無駄をなくす」に進み、その中でアプローチとして、リアルタイム・サービス法を解説しました。そして、この手法を採用して生産性向上に挑んだ例として、福井県あわら市にある温泉旅館のグランディア芳泉を紹介しました。その具体的な取り組みが、大型旅館の常識からすると驚きに値する「出来立てのおいしい料理」を提供するというもの。それをどうやって実現したのか、どのような効果を上げたのか、今回は詳しく説明します。
グランディア芳泉では、まず食事処「遊膳(ゆうぜん)」で生産性向上に向けた改革に着手し、できるだけお客さまの近くで調理するようにレイアウトを変えました。客席の中央、ガラス越しに調理業務の様子が見える「場所」に厨房を配したのです。
客席と厨房の距離を短くすれば、ホールから厨房にすぐ「情報」が伝わります。事前に必要な最低限の仕込みだけを済ませ、食事処の営業が始まるとお客さまの食べる「時間」に合わせ、さっと加熱調理や盛り付けなどをして料理を提供できるようにしたのです。
客席までの動線が短くなったので、その分、料理を配膳する効率も上がり、ベストのタイミングで出来立ての料理をお客さまに提供できるようになりました。こうしたオペレーションは、定食店や居酒屋などの小さな飲食店では当たり前ですが、短時間で多くのお客さまに対応する大型旅館では難しいという思い込みがあったのです。前もって料理が調理され、どこかに保管されていれば、そこから持ってくればいいので料理提供のタイミングが遅れたり、慌てたりするリスクもなく、現場のスタッフは安心するのです。しかし、それは間違いです。
図2「作り置き」と「出来立て」はどちらが効率的か
提供のタイミングを的確にするため、グランディア芳泉では、コース料理の提供間隔を「7分」と決めました。7分という数字は、おおよそ1時間半で食事を終える人が多いので、そこから逆算した計算結果です。
当初は客席ごとに紙のシートを用意し、そこに個々の料理を出した時間を手書きで記録。これをホールと厨房のスタッフがチェックし、7分を超えそうな料理があれば最優先で作りました。2016年春からは、提供時間の入力や提供が遅れている場合の警告などが自動で出るITシステムを構築し、提供タイミングの精度を高めました。
7分はあくまでも目安で、料理を提供するリズムとして設定したものです。お酒を飲む人、飲まない人によっても料理を食べるスピードが違うので、コースの3品目に当たるお刺し身を出すときに「今のお料理のペースでいかがでしょうか」と、配膳担当のスタッフがお客さまに確認します。その情報を厨房に伝え、その後の提供時間を調整するという工夫をしています。
お客さまが食べる姿を見ながら調理すればロスを抑えられ、急な要望、料理の好き嫌いといった細かな要望にも対応しやすくなり、売り上げアップの機会も増やせます。「お客さまが来る前にあらかじめテーブルに料理を置くようなオペレーションに比べ、お客さまと接する時間は格段に増えます。要望を丁寧に聞けるので、より質の高いサービスを提供できます。お客さまも従業員も大満足です」と、同社の山口賢司代表取締役専務は言います。
お客さまが食べる場所に近づいて調理、盛り付けをする。お客さまの食事時間に調理のタイミングを合わせる。お客さまに近づいて接客時間を増やし、お客さまの情報を正確につかむ──。グランディア芳泉の改革はこの3点で言い表せます。
このように、リアルタイム・サービス法でいう業務の「場所」「時間」「情報」をできるだけお客さまに近づければサービス業の生産性は大きく引き上げられ、それによって時短も進められるのです。
しかもこの手法は、単にコスト削減を目的にしているのではなく、「出来立てのおいしい料理」で品質も向上するので、顧客満足も実現します。ストップウオッチを手に、作業時間の短縮や動線の簡略化を図るようなアプローチとは全く異なるのです。
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執筆=内藤 耕
工学博士。一般社団法人サービス産業革新推進機構代表理事。世界銀行グループ、独立行政法人産業技術総合研究所サービス工学研究センターを経て現職。
【T】
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