中小サービス業の“時短”科学的実現法(第17回)お客さまの要望とスタッフの行動をマッチング

業務課題 経営全般 スキルアップ

公開日:2024.04.02

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 前回から第3ステップの「作業の無駄をなくす」を解説しています。その方法として「アプローチ8 サービス・キネティクス原則」を紹介しました。具体例として、理美容室チェーンの取り組みを挙げましたが、今回はその続きとして、クリニックと米菓メーカーの工夫と成果をお話したいと思います。

 お客さまからの問い合わせやクレームは、業務プロセスの不備に基づきます。例えば飲食店の場合、メニューブックの情報が不十分なら、多くのお客さまから同じような質問を受けてしまいます。また、期待と違う料理が提供されればクレームになり、現場のスタッフは対応に時間を割かなければなりません。

 現場のスタッフはこれに対応する時間が必要で、場合によってはサービスを提供し直さなければなりません。これでは、売り上げを全く増やさない労働時間が投入されていくだけで、問い合わせやクレームを撲滅していかないと、現場の生産性に大きく影響します。

 医療機関においては、患者の要求と医師による治療内容のミスマッチは致命的な問題になりかねません。そこで、北海道苫小牧市に拠点を置き5つのクリニックを展開している医療法人社団 北星会では、手作りの動画を効果的に活用しています。北星会が経営する皮膚科専門の「北星皮膚科クリニック」では、レーザー治療を希望する患者に、治療内容や術後のケアを説明する7分間の動画をタブレット端末で見てもらいます。この動画は島野雄実理事長が構成を考え、スタッフと協力しながら数台のスマートフォンで撮影し、パソコンで編集したものです。

 患者は時として医師に繰り返し質問したり、説明したりしてもらうことをためらいます。また、治療内容を細かく記載した資料を患者に渡してもきちんと読まないものです。その点、動画ならストレスなく自分のペースで、納得するまで何度でも視聴できます。最後まで見た患者が終了ボタンを押すのでトラブルもなくなりました。札幌、横浜、大阪で展開している肥満治療専門の「北星クリニック」では、予約の仕方を5分間の動画で伝えています。肥満治療は長期通院が必要なため、患者には予約方法を正しく理解してもらう必要があります。

 以前は受付スタッフが口頭で説明していましたが、動画にしたことで時間を大幅に削減できただけでなく、トラブルも回避できるようになりました。動画の活用により生まれた時間は患者に還元できます。肥満治療に1回当たり30分ほど、さらに処方薬の説明などにもじっくりと時間をかけられます。

 「肥満治療は生活習慣の改善が重要で、『この医師が言うなら、ちゃんと実行しよう』と信頼してもらうことが第一歩」だと島野理事長は言います。待合室でも「あと何人です。お待たせして申し訳ありません」と一人ひとりの患者に目を配ります。受付スタッフの目配り、気配りも、動画活用などにより業務負担を軽減しているからできるのです。

 サービスは、お客さまの「要求」とスタッフの「行動」の共通部分です。それぞれのミスマッチから起きるのが問い合わせやクレームで、北星会ではその原因を取り除くために、事前にサービスの内容と提供方法をしっかり伝え、行動から患者の要求が外れないように工夫しているのです。

機械化に向く現場、向かない現場…

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執筆=内藤 耕

工学博士。一般社団法人サービス産業革新推進機構代表理事。世界銀行グループ、独立行政法人産業技術総合研究所サービス工学研究センターを経て現職。

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