経営に生かす「失敗学」(第1回)事故はなくならない─人の判断、行動が原因に

経営全般 スキルアップ

公開日:2022.12.15

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 私は東京大学の畑村洋太郎名誉教授とともに立ち上げた失敗学会の活動を通して、新たな知見を得て考察を重ねることができました。また、いかなる対策をすれば事故を減らせるのかについて講演をし、意見交換をする中で、それなりに自分の考えを進化させてきました。本連載ではそれらの一部を紹介、説明します。こうした活動も含めて、事故の低減を目指す努力を私自身継続していくつもりです。

 人の判断、行動が事故原因の一端となったとき、それらの要因は「ヒューマンファクター」といわれます。例えば2017年12月、博多発の新幹線のぞみ号で走行中、複数回異臭と異音が検知されたのにそのまま走り続けました(注1)。新大阪でJR東海に運行が引き継がれ、名古屋駅で保安員が異音を聞いて床下点検をし、油漏れを発見してようやく運行が停止されました。乗客を降ろした同のぞみ号を移動中に、台車に亀裂が発見されたのです(注2)。

 このような危険な状態にあったのは後から分かったのですが、その兆候が発見された山陽路線で床下検査を行わなかったのは、JR西日本の車掌、保安員、そして指令員のコミュニケーションミスと判断ミスでした。

ヒューマンファクターを考える

 2005年の福知山脱線事故以降、「何かあれば列車をすぐ止めて確認する」と徹底した(注3)はずであったのにと、このときはJR西日本がずいぶん批判を浴びました。時速300キロメートルで走行中に、もし台車が破壊していたら、そして反対向きの新幹線がもし巻き込まれたら、乗車率にもよりますが、2000人を超える死傷者が出ていた可能性があるかと思うとぞっとします。

 ここでのヒューマンファクターは、「何かあるのかどうか」の判断と、「コミュニケーション」でした。このときのコミュニケーションミスは、点検を提案した保安員の言葉を指令員が聞き逃したというお粗末なものでしたが、異臭、異音の判断はどうでしょうか。列車が鳥や小動物にぶつかることはあるそうですし、誰かがマニキュアを塗っていたら異臭はします。事実、この事故後にJR西日本では異音などによる停止が突出していると報告されています(注4)。「あつものに懲りて膾(なます)を吹く」の典型例だといえましょう。

 いくら注意を喚起し、訓練を重ねても、人間の五感による異常検知に大きく頼るのでは、現場はたまりません。現代の科学技術であればそれこそ検知できないものはないほどでしょう。ただその検出装置がコストに見合うかどうかが問題となります。その後の報道では、同列車が博多で折り返す前、小田原と豊橋で、赤外線センサーにより問題の台車の温度上昇が記録されていたことが分かっています(注5)。ただし、その上昇分が基準内だったため、そのときに警報は鳴らず、後からの調査で分かったそうです。今後、このセンサーの増設と基準値見直しが行われるでしょう。

身近な「蛇口」でヒューマンファクターを考える…

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執筆=飯野 謙次

東京大学、環境安全研究センター、特任研究員。NPO失敗学会、副理事長・事務局長。1959年大阪生まれ。1982年、東京大学工学部産業機械工学科卒業、1984年 東京大学大学院工学系研究科修士課程修了、1992年 Stanford University 機械工学・情報工学博士号取得。

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