経営に生かす「失敗学」(第3回)災害に真剣に備える避難訓練が大切

経営全般 スキルアップ

公開日:2023.02.10

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 2008年に始まった失敗学会大阪分科会主催の合宿は、私にとって大変な楽しみです。毎年テーマは違いますが、工場見学、災害や戦争の爪あとの視察、そして観光も少し加えた勉強会です。2019年の春合宿は、前年夏の京都大会で講演してくださった京都大学教授のご案内で、桜島にある京都大学防災研究所火山活動研究センターを見学しました。特にハルタ山火山活動総合観測坑道を途中まで歩いたのは、二度とできない経験だろうと思います。

 これまでに火山といえば、せいぜい高校の修学旅行で箱根の大涌谷、大学生時代に富士山五合目まで車で、蔵王にスキー、数年前に大島まで出掛けたくらいでした。この年の春合宿では鹿児島に1日早く到着した私は、翌日フェリーで集合場所の桜島に向かいました。幸い晴天だったため、桟橋を離れたフェリーで最も快適な場所と思われた青天井の最上階に席を陣取りました。

 ところがこれが大きな間違いだったのです。3日前に比較的大きな噴火があったと聞いていたのですが、フェリーが沖に出るとかなり強い風が吹いており、その風に向かって座っていた私の顔に、何かがプツプツと当たって痛いのです。そうか、噴煙がまだ残っていて、漂う火山灰を風が運んでいるのだと気がつきました。

 慌てて下の階に避難しましたが、口の中には砂粒のような火山灰がわずかに残って、ジャリっとしました。桜島でフェリーを降りると、そこここに、黒とグレーの混じった火山灰が残っていました。桜島、湾を挟んで反対側の鹿児島市やその近郊では、人々は常に火山と向き合いながら暮らしているのだと知りました。

鹿児島市の警戒レベル

 この日は、京都大学教授の講演の他に鹿児島市危機管理課の方の話を聞きました。1914年の大正噴火で、鹿児島市と反対側の大隅半島とつながった桜島(注1)ですが、行政区としては鹿児島市の一部です。そして近隣市とともに、常に降灰に悩まされていると知りました。2017年の噴火以来、活発化した桜島はこのところ年間500回近く噴火していますが、2010年から2013年は年間1000回を超える噴火を記録しています(注2)。

 その降灰除去作業は、他の自治体にはない事業です。農業も降灰被害を避ける工夫をしており、山には土石流を防ぐための砂防ダムも配されています。1986年の噴火では、直径2メートル、重さ5トンの噴石が火口から3キロメートル離れた旅館に落下しました(注3)。

 鹿児島市では、桜島の住民全員に防災ヘルメットを貸与しており、それぞれにバーコードが付いていて、どこの誰であるかが分かるようになっています。このあたり、2002年に長崎市で建造中の豪華客船で火災があり、約1000人の作業員全員の退避に成功したときに、全員にタグが付けられていたのに似ています。

 また、桜島のヘルメットには、町内会長が一目で分かるように赤のビニールテープが付けられているそうです。これは化学工場での火災の際、むやみに水をかけて被害が拡大しないよう、工場の現場責任者のヘルメットに印が付けられているのに似ています。駆けつけた消防が、まず責任者を見つけて適切な消化法について確認できるようにするためです。防災を真剣に考えるところでは、素直に他に学ぶ姿勢があるようです。

避難訓練に真剣に取り組む…

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執筆=飯野 謙次

東京大学、環境安全研究センター、特任研究員。NPO失敗学会、副理事長・事務局長。1959年大阪生まれ。1982年、東京大学工学部産業機械工学科卒業、1984年 東京大学大学院工学系研究科修士課程修了、1992年 Stanford University 機械工学・情報工学博士号取得。

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