経営に生かす「失敗学」(第9回)失敗知識データベースを構築してみよう

経営全般 スキルアップ

公開日:2023.08.14

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 国の事業として始まった失敗知識データベースは、産業界の事故事例を1000件以上集め、めぐりめぐって今は失敗学会が公開、管理しています(注1)。最初に手がけたのが、それまでなかった検索機能の開発です(注2)。

 以前はトップダウンの目次から事例のカテゴリをクリックし、表示される題名で目的の事例を探すしかありませんでした。検索機能の開発により、記事内容の全文検索が可能になりました。同じような検索は、グーグルのサイト内検索でも可能ですが、テクニックを覚え、知恵をめぐらせなくても、失敗知識データベースの入り口から分かりやすい形でその機能が提供されているのが便利です。

 失敗学会ページへのアクセスは毎月カウントしており、訪問数は毎月15万程度です。訪問数はヒット数とは違い、何人が見ているかという数字に近いものです。失敗学会ホームページのヒット数は、訪問数の15倍程度となりますが、あまり意味のある数字ではありません。月15万の訪問数であれば、1日平均5000人程度が訪れています。それまでの失敗学会ホームページアクセスのおよそ10倍ですから、世の中のニーズが高いことが分かります。

 失敗知識データベースの特徴は、記述のデータ構造を統一したことと、失敗原因のまんだらを考え出したことです(注3)。これは失敗原因を10個の大分類に分け、それらを円状に配置し、それぞれをさらに2個から4個の細かい分類に分けてその外側に配した図です。結果、失敗原因の全体像が仏教のまんだら図のようになったので、この名前が付きました(図1)。

■図表1 失敗原因のまんだら図

 失敗まんだらのルーツは、1996年に出版された『続々・実際の設計─失敗に学ぶ─』(畑村洋太郎、実際の設計研究会)(注4)にあります。何年もかけて練られたものであるので、バランスがいいばかりでなく、他分野にも応用できます。会社や特定の業界、あるいはもっと小さな組織単位や個人でも失敗知識データベースを構築し、失敗原因のまんだらを作成できるので、その手法と応用例を紹介します。

失敗知識データベースの構築

 データベースの構築ですから、どんなに素晴らしいものができても、データがなくては入居者のいないマンションのようなものです。まずは事例に関する情報を集めなければなりません。どれくらい集めればよいかというと、50件が目標です。

 『続々・実際の設計』では、100件余りの事例を収集し、失敗原因まんだらの構築につながりました。後出の2つの応用例では、50件程度を収集してそれぞれの分野のまんだらを作成しました。50件もあれば失敗知識データベースの構築、その成長の種としては十分でしょう。

 情報の集め方は、組織内での応用を考えているのであれば、事故報告書、不具合報告書でも十分です。ただし、漫然と集めてよしとしたのでは不十分で、共通の記述を念頭に情報をまとめ直すと、後の知識共有に大いに役立ちます。

 失敗学会の失敗知識データベースのデータ構造は、最初の構想(注5)から発展し、今では概要、経過、原因、対処、対策、知識を必須の項目とし、それぞれを独立させて記述しています。その他補遺項目として、背景、後日談、よもやま話も追加できることとしました。発生日時は年月日、発生場所は行政区と場所タイプ(工場、学校など)を記録します。

原因情報の抽象化を行う…

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執筆=飯野 謙次

東京大学、環境安全研究センター、特任研究員。NPO失敗学会、副理事長・事務局長。1959年大阪生まれ。1982年、東京大学工学部産業機械工学科卒業、1984年 東京大学大学院工学系研究科修士課程修了、1992年 Stanford University 機械工学・情報工学博士号取得。

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