MIT×デロイトに学ぶ DX経営戦略(第10回)今の仕事は未来にもあるのか?

経営全般 デジタル化

2022.04.06

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改善から破壊へ――デジタル化の2段階

 メールを使っていない人、スマートフォンを持っていない人、ソーシャルメディアを避けている人を、私たちは誰かしら知っている。「テクノロジー(あるいは新たなテクノロジー)を恐れる人は、現状で満足しているように見える」ので、そうした人をさしてラッダイトと呼ぶこともある。この言葉は、2世紀以上前にイギリスで起きた工業化への抗議運動に由来する。

 現在、私たちは当時とは異なる世界に、特に経済的見通しに関しては、当時とは異なる世界に生きている。ただ、新しいテクノロジーが私たちの仕事と私たちが働く組織に及ぼす影響については、不確実性が増す一方である。安価で効率的なテクノロジーのために仕事を失うのではないかという恐れが、この不確実性に含まれる場合もある。過去20年の間にテクノロジーによってもたらされた変化に何とか適応しようと企業は悪戦苦闘してきたが、このディスラプションが速度を緩める気配はまったくない。それどころか、今後10年か20年の間に訪れる変化が与える衝撃は、恐らくさらに破壊力が増すはずである。

 ここでは、進行中のディスラプションが個人と組織に与える影響について検討していこう。テクノロジーが人間の仕事を破壊する場合、恐らく2段階で発生することになるだろう――最初に人間の働き手の価値を拡大し高めて、次にその人間にすっかり取って代わるのだ。つまり多くの仕事は、テクノロジーに完全に取って代わられる直前に、テクノロジーによって改良され改善されることになる。人間の働き手の価値がテクノロジーによって短期間だけ高められるからといって、ディスラプションが起こらないなどと思い違いをしてはいけない。

 来るべきテクノロジーのトレンドだけでも――自動運転車、AI、ブロックチェーン、付加製造、AR、VR――今後10年の間に仕事に多大な影響を及ぼし得るだろう。だが、総合的に考えれば、こうしたいくつものテクノロジーのトレンドは、仕事の未来に生じる甚大な破壊の前触れに当たる。実のところ、前方に延びるデジタルディスラプションの道は、テクノロジーが仕事に及ぼす破壊的影響の終わりではなく、始まりに近づいていることを示唆する。私たちの経験から言って、この破壊がやってくることを多くの人が知りながら、テクノロジーが自分たちのキャリアにどんな影響を与えるのか、たいていは社員もリーダーも考えていない。

仕事の未来か、未来の仕事か?

 こうしたテクノロジーによる仕事への影響は複雑で、完全に予測できるわけではない。例えば、MITの経済学者デイヴィッド・オーターによれば、現在の銀行窓口係の仕事は、ATM導入時と比べて2倍近いが、その仕事は以前とは極めて異なるという。金銭を数えたり記録をつけたりする仕事は減り、顧客との関係構築や、財務的アドバイスを与える仕事が増えているのだ。

 多くの学識経験者が「今回の破壊はこれまでと異なる」と言っているが、自分たちの経験した破壊は前回の破壊とは異なると、いつの時代の人間も言うものだと、オーターは指摘する。前の世代が当時直面した破壊にどのように適応したか、私たちは過去を振り返って理解できるが、現在直面している破壊にどう適応すべきか正確に理解しようと、未来に目を向けることはできないのだ。

 デロイトのCEOキャシー・エンゲルベルトはこれに同意し、一般に用いられる「仕事の未来」という表現よりも、こうしたトレンドを「未来の仕事」として論じるほうを好むと言っている。後者のほうが前者よりはるかに楽観的(かつ、正確だと私たちは考える)なので、私たちもこの用い方に賛成だ。後者には、仕事に未来があるかどうか、仕事は存在するのかどうかという疑問ではなく、将来仕事はどのように行われるのかという変化の意味合いがある。

 かつてテクノロジーによる破壊が起きた時代のように、働き手と経済は新しい需要に適応するだろうと、私たちは考える。さらに、過去のそうした時代のように、人々が適応しようとするとき、そのプロセスは往々にして痛みを伴い破壊的になるだろう。過去の事例を振り返り、解決策にたどり着くまでに経験する不確実性と困難を経なくても、解決策に飛びつくことができるので、今回は以前とは違うように見えるかもしれない。

生涯キャリアの終焉(しゅうえん)…

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訳者=庭田 よう子

翻訳家。慶應義塾大学文学部卒業。おもな訳書に『目に見えない傷』(みすず書房)、『ウェルス・マネジャー 富裕層の金庫番』(みすず書房)など。

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