これからのビジネスをつくるための「サービスデザイン思考」(第3回)「ほしいもの」を与えるだけでは顧客ニーズは満たせない

経営全般 スキルアップ

公開日:2023.04.17

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応えるべき顧客ニーズ、ちゃんと選べてる?

 ビジネスを考えるうえで「顧客ニーズ」を理解し、それに応えていくのが大切であることは、もはや常識です。顧客のニーズを無視した製品やサービスなんて市場で受け入れられるはずはないですし、企業目線で考えられたビジネスも当然ユーザーには喜ばれないことは、このコラムに関心のある読者であれば十分お分かりかと思います。

 昨今は世の中にモノやサービスがあふれています。ありきたりなニーズだけを表面的に捉えるだけでは、顧客がわざわざ選び、ファンになってくれるような製品やサービスをつくることはできません。だからこそ、多くの企業は、「顧客が何を求めているのか?」「何に困っているのか?」を理解するためのリサーチにたくさんの時間や費用をかけています。しかし、一生懸命に顧客のニーズを理解しようと手を尽くし、応えようと知恵を絞っているにも関わらず、なかなか顧客に心から愛してもらえる製品やサービスをつくれず苦心されている企業は少なくないはずです。

 この問題については、拙著『サービスデザイン思考』の中でも理解すべき顧客ニーズのレベルが重要であると書きました。顧客がすでに自覚していて、解決や充足されることを求めているニーズ(顕在ニーズ)だけでなく、自分自身が欲しいもの、したいことにすら気づいていない深いレベルのニーズ(潜在ニーズ)に目を向けることで、顧客を満足させるだけでなく、感動や強い愛着を感じてもらえるような経験価値を提案する製品やサービスを考えるヒントになることを説明しています。

 今回は角度を少し変えて、「ニーズ」という言葉を掘り下げていきたいと思います。私たちはビジネスの現場で何気なくニーズという言葉を使っていますが、ニーズって一体何なんでしょうか? マーケティング研究者として有名なフィリップ・コトラーらは「Marketing Management:An Asian Perspective,7th edition」(Pearson Education,2018)で、「ニーズ(Needs)」について、よく似た意味で使われがちな「ウォンツ(Wants)」、「デマンズ(Demands)」と並べて対比的に定義しています。このコトラーらの定義を、実務家でありながら社会構想大学院大学でマーケティングやサービス研究を教えている高広伯彦さんが大変分かりやすく整理されているので、それを参考に説明したいと思います。(図1)

図1:ニーズ、ウォンツ、デマンズの違い(Kotler他, 2018の定義を高広氏が整理・解説されたものを要素抜粋・引用し筆者作成:出典:https://note.com/mediologic/n/n0669ab180977

 

 高広さんの整理によると、ニーズ、ウォンツ、デマンズの定義は次の通りです。

・ニーズ:人間が生きていくうえで要求、必要とするもの(例 食料=何かを食べたい欲求)
・ウォンツ:ニーズがそれを満たす特定の何かになったもの(例 てんぷら、そば、うどん)
・デマンズ:ウォンツが購入可能な特定の何かに向けられたもの(例 ○○製麺のうどん)

 高広さんの整理で興味深いのは、ニーズは人間の根源的な欲求なのでマーケティング従事者(企業)がコントロールできない、と指摘されている点です。つまり、根源的欲求であるニーズに応答する具体的な提案となるウォンツとデマンズについては企業が関わる(提案する)ことができるけれども、ニーズはそうではありません。日頃私たちは、ついつい「ニーズを生み出す」や「新たなニーズを創造する」なんてことを言ってしまいがちですが、ニーズは企業がどうこうできるものではないんですね。

 企業にとってできることは、人々が抱えている数あるニーズの中で、どのニーズに着目し向き合うのが自社にとって意味があるのかを決めることではないでしょうか。言い換えるなら、顧客に愛される製品やサービスをつくれるかどうかは、自分たちが本気で取り組むニーズをちゃんと選べるか否かに懸かっていると言っても過言ではありません。いくらマーケティング・リサーチをして、人々のニーズを理解できたとしても、「誰の」「どんなニーズ」に対して応えるかが曖昧であったり、ピント外れだったりすると意味がないのです。

 これからの時代、企業は自社にとって経済的な利益になることだけなく、社会に対する責任、顧客だけでなく従業員など多様な関係者にとっても貢献するビジネスを行うことが強く求められます。そういった時流を踏まえると、企業にとって選ぶべき「ニーズ」は、もはや単に自社のビジネスにとって都合のよいものだけではなく、そのニーズの充足が人々や社会にとってどれだけ大きなインパクトを期待できるものかにもなりつつあるのです。みなさんは、自社にとって向き合う意味のある人々や社会の「ニーズ」を、適切に選べていますか?

重要なニーズが何か、は顧客がひとりで決めるわけじゃない…

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執筆=井登 友一

株式会社インフォバーン取締役副社長/デザイン・ストラテジスト。2000年前後から人間中心デザイン、UXデザインを中心としたデザイン実務家としてのキャリアを開始する。近年では、多様な領域における製品・サービスやビジネスをサービスデザインのアプローチを通してホリスティックにデザインする実務活動を行っている。また、デザイン教育およびデザイン研究の活動にも注力し、関西の大学を中心に教鞭をとる。京都大学経営管理大学院博士後期課程修了 博士(経営科学)。HCD-Net(特定非営利活動法人 人間中心設計推進機構)副理事長。日本プロジェクトマネジメント協会 認定プロジェクトマネジメントスペシャリスト。

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