これからのビジネスをつくるための「サービスデザイン思考」(第2回)モノが物語る「まだ名前がついていない価値」

経営全般 スキルアップ

公開日:2023.03.09

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小さいサービスと大きいサービス

 さまざまな産業界で、企業が市場や顧客に対して提供すべき価値を「モノから、コトへ」シフトしていくべきであることが求められています。前回のコラムで提示したサービスデザインの定義は、まさにこの考え方とも重なるのではないでしょうか。

サービスデザインとは、顧客が自覚していないレベルのニーズや欲求に対して、顧客との共創関係のもと価値を提案し、良い関係を持続する仕組みを持った製品・サービスを創りだすこと、それによって、自社と顧客の双方のみならず、多様な利害関係者間で価値を共有し、循環できるビジネスの実現をめざすもの。(『サービスデザイン思考』P. 20)

 その背景にあるのは、市場における価値の捉え方が大きく変化したことが挙げられます。かつては製品(モノ)の「所有」そのものが顧客にとって価値だったけれども、時代の流れの中で製品を所有すること自体の価値は薄れていき、その製品を「使用」することで結果として得られる経験(コト)こそが重要視されるようになりました。

 このような「価値」の捉え方が、サービスデザインの根っこをつくっている論理的な概念である「サービス・ドミナント・ロジック」という考え方です。カタカナ文字が並ぶ少し難しい概念の説明になりますが、サービスデザインを理解するうえでとても重要な考え方なので、しばしお付き合いください。

 サービス・ドミナント・ロジックは、ラッシュとヴァーゴという二人のマーケティング研究者が2004年に発表した「マーケティングの新しい価値支配論理への進化」(原題“Evolving to a New Dominant Logic for Marketing”)という論文で提唱された概念です。要点としては、市場に存在する製品やサービスの何が顧客にとっての価値となるかを決定づけるもの(価値の支配論理)が大きく転換しつつあることを示唆しています。

これまで市場における製品やサービスは、対価と交換に取引(購買)されて顧客に価値を提供するものが主流だったけど、これからは顧客がその製品やサービスを手に入れた時点では価値は存在していなくて、顧客がそれらを使用(経験)することによって価値が完成するようなものが主流として置き換わっていく。

 ラッシュとヴァーゴは、かつて主流だった市場における価値の支配論理を「グッズ・ドミナント・ロジック」(以下「GDL」)と呼び、サービス・ドミナント・ロジック(以下「SDL」)と対比して、これら2つの価値支配論理の大きな違いを、GDLが「交換価値(Value in Exchange)」に基づいて製品やサービスを考えるのに対し、SDLが重要視する価値の考え方を「使用価値(Value in Use)」 だと定義しました。(図1参照)

図1:GDLとSDLの概念イメージ(『サービスデザイン思考』P. 33より引用)

 

 GDLは、顧客は対価を支払いさえすれば、それと交換に製品やサービスが持っている価値を手に入れることができる、という考え方です。GDLの考え方のもとでは製品やサービスの価値は、製品の完成時や出荷時点ですでに完成していて、誰が顧客であったとしても「同じ価値」が画一的に保証されているともいえます。そして、モノにはモノの、サービスにはサービスの価値がそれぞれ保証されているということになりますので、モノとサービスはそれぞれ別個に分離して扱えるということになります。加えてGDLでは、多くの場合サービスはモノの価値を補完・補助するような位置づけのものとして扱われるのです。このように、モノと分離して存在していて、個別に扱うことができるサービスを便宜上「小さいサービス」と呼ぶことにしましょう。

 それに対してSDLでは、製品やサービスの価値は対価と引き換えに顧客に即座に提供されるのではなく、顧客が製品やサービスを使用するという一連の経験を通して「自分にとって何が価値なのか」を実感=認識した時点ではじめて実体化します。

 製品やサービスの中に完成された価値があらかじめ封じ込められているのではなく、顧客が使用することで価値が完成する。言ってみれば、価値という観点から見ると「半完成品」の製品やサービスを、顧客が関わることで「完成品」にしていくようなイメージです。

 つまり、SDLのもとでは、企業は価値を詰め込んだ完成品として製品やサービスを一方的に顧客に提供する立場ではなく、顧客自身も製品やサービスに関わることで価値を共につくりあげていく役割を担うのだ、という観点で製品やサービスを考えるのです。

 そして、企業と顧客の関わりの中で価値が完成するという考え方を「価値共創(Co-Creation)」と呼びます。製品やサービスを媒介とした企業と顧客との関わりあいによって価値が共創されるためには、モノとしての製品と、モノを使用する際の一連の顧客体験を良いものにするためのサービスは一体化したものとして考えられないといけません。なぜならば、SDL的な製品は顧客が使用してはじめて価値が実体化=完成するという前提なので、製品使用の際の顧客体験を切り離してしまっては製品そのものが成立しないからです。

 サービスデザインがデザインする対象である「サービス」とは、このような「製品と顧客との関わり合いがどのようなものであるべきか?」そのものを意味しているのです。先ほど、GDLにおけるサービスは「小さいサービス」と呼びましたが、SDLにおけるサービス、そして本連載が主題とするサービスデザインがデザインの対象とするサービスは「大きなサービス」と呼べるかもしれません。

企業は「価値提案」しかできない…

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執筆=井登 友一

株式会社インフォバーン取締役副社長/デザイン・ストラテジスト。2000年前後から人間中心デザイン、UXデザインを中心としたデザイン実務家としてのキャリアを開始する。近年では、多様な領域における製品・サービスやビジネスをサービスデザインのアプローチを通してホリスティックにデザインする実務活動を行っている。また、デザイン教育およびデザイン研究の活動にも注力し、関西の大学を中心に教鞭をとる。京都大学経営管理大学院博士後期課程修了 博士(経営科学)。HCD-Net(特定非営利活動法人 人間中心設計推進機構)副理事長。日本プロジェクトマネジメント協会 認定プロジェクトマネジメントスペシャリスト。

【T】

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