ネット通販の拡大などで利用が急伸する宅配。その姿が、ITの活用で変化していきそうだ。例えば、自宅などへ荷物を届ける際の最大の課題である「ラストワンマイル」に対して、自動運転車やドローンなどを使って人間の介在を減らそうという取り組みが着実に進んでいる。
最近、宅配を巡っては、さまざまなニュースが飛び交っている。荷物量の増加やドライバーの人手不足が顕著になり、その影響を受けて、宅配各社による料金や配達時間帯の変更や大口取引先の見直しというニュースが聞こえてくる。ネット通販により増大していく荷物量を処理できるだけの人手が確保されるのか、宅配は岐路に立っている。
人手不足という宅配の課題に対して、ITを駆使した取り組みが徐々に進んでいる。要するに、人手に頼っているラストワンマイルの配達を、できる限り省力化しようというものだ。その仕組みづくりにITが大きく寄与する。
先端的な取り組みの1つとして、ヤマト運輸とディー・エヌ・エー(DeNA)が神奈川県藤沢市で開始した「ロボネコヤマト」の実証実験がある。車内に荷物の保管ボックスを設置したEV(電気自動車)を、配達先の近くに駐車。そこへ利用者に荷物を取りに来てもらい、配達時の人手の介在を減らす実験である。ロボネコヤマトには、一般の宅配を扱う「ロボネコデリバリー」と、地元で対象商店の買い物を代行する「ロボネコストア」の2つのメニューがある。
いずれも、利用者はスマートフォンで荷物を受け取る「場所」と、10分単位の「時刻」を指定する。対象エリア内であれば、自宅やオフィスだけでなく指定した場所で受け取りが可能だ。到着3分前に電話で連絡があり、クルマが到着したらスマホに表示した二次元コードか、あらかじめ設定した暗証番号を使って保管ボックスのロックを解除し、荷物を受け取る仕組みだ。
実験では、EVの運転は原則としてドライバーによる有人運転だが、ヤマト運輸とDeNAは、ロボネコヤマトを将来の自動運転社会を想定した実験と位置づけている。2018年をめどに、一部の配送区間で自動運転の導入も計画している。それが実現すれば、人手を介在させずに確実に荷物を受け取るという宅配の新しい姿が具体化する。
すしの自動宅配やドローンによる空からの宅配も…
人手を介さずに配達する試みは他にも行われている。例えば、2017年7月には「すし」の自動宅配をするロボットが公開された。ロボット開発ベンチャーのZMPと、宅配すし「銀のさら」などを運営するライドオン・エクスプレスが共同で、すしの自動宅配の実証実験を開始する。
実証実験に利用するのは歩道走行をめざす宅配ロボット「CarriRo Delivery」(キャリロデリバリー)。宅配ボックスを搭載した宅配ロボットで、カメラとレーザーセンサーを使って周囲の環境を認識しながら、最大時速6kmで自動走行する。まずは私有地で実証実験を始め、サービスの具体的内容の検証を進める。ロボットが歩道を自動走行することに対応した法制度が整備されれば、住宅地の歩道があたかも大きな「回転すし」になったように、すしが街を流れる世界が実現しそうだ。
地上を移動する交通手段ではなく、空から荷物を届けてしまおうという実験も始まった。海外ではアマゾンなどがかなり前からドローン配送の実用化に向けた実験を実施しているが、人手不足が顕在化している日本でも、ドローン配送の実証実験を開始している。
楽天、自律制御システム研究所(ACSL)、NTTドコモは、千葉市内でドローン配送の実証実験を行った。千葉市内の稲毛海浜公園および周辺海上で、ドローンを使用した荷物配送を実施。約400gの荷物を700m離れた指定の場所に届けることに成功した。実はこの実験におけるドローンの制御は、東京都世田谷区の楽天の本社から遠隔で行った。NTTドコモのLTEネットワークを利用し、ドローンに飛行指示を与える遠隔制御が可能だと実証した。将来的には、ドローンの海上飛行や第三者上空飛行を想定し、実証実験に取り組む。
千葉市以外では、福岡市の能古島でドローンによる医療品配送の飛行試験が行われているほか、愛媛県今治市の大三島で野菜などのドローン配送の実験が行われている。これらは千葉市の都市部の実験とは目的が異なる。離島との間の物流の確保や災害時の物資輸送を、無人のドローンで円滑に行えるようにしようという取り組みだ。
人手不足の中で、物理的な流通網を維持・拡大するには省力化がポイントになる。そのためのロボットや自動運転車、ドローンといったハードの開発は、今後、急速に進むだろう。そして、それを支える通信技術の重要性は増大する。人の手を使わずに荷物を運ぶ場合でも、それをコントロールする情報通信は欠かせないからだ。しかも、それには非常に高いセキュリティーが求められる。宅配省力化の成否は情報通信技術にかかっているといっても過言ではない。