ビジネスコミュニケーション手法の改善(第10回)
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公開日:2021.12.20
今野製作所は従業員わずか39人の中小企業ながら、国からDXのモデル企業に選出されています。なぜ町工場がDXを進められたのでしょうか?代表取締役 今野浩好氏に聞きました。
<目次>
・もともとは台帳や伝票も手書きの町工場だった
・「人」に依存した業務プロセスは混乱を生む
・なぜ今野製作所は業務に必要なシステムを内製できたのか
・DXに高スキル人材はいらない?
・「中小企業こそDXは進みやすい」
東京都足立区に本社を構える今野製作所は、板金加工、機械修理、油圧機器製造などをメイン業務とするものづくり企業です。
従業員数は39人(2021年11月現在)という中小企業ですが、2016年には経済産業省主催の「攻めのIT経営中小企業百選2016」に選定されています。これはITやデジタルの活用に積極的に取り組み、成果を上げた中小企業を同省が認定するというもので、同省が現在公開している、製造業におけるDXの事例をまとめた資料「製造業DX取組事例集」にも掲載されています。
しかし代表取締役の今野浩好氏は、以前はいかにも”町工場”といえるような、デジタルとは程遠い職場環境だったと振り返ります。
「私が入社した1996年当時の今野製作所は、台帳や伝票は手書きで、月間の売り上げがいくらかを把握するのに、会計事務所から3カ月後に送られてくる試算表を待たねばなりませんでした。入社後は、販売管理パッケージや会計システムなどを導入し、本社から離れた工場で勤務する従業員との情報共有のためにグループウエアを導入するなど、その時々に必要なITを導入するようになりました」
2000年前後から地道なIT化を進めてきた今野製作所が、本格的なDXに取り組むきっかけとなったのが、2008年のリーマンショックでした。
リーマンショック後の今野製作所の売り上げは、対前年4割以上も落ち込んでしまい、経営の危機に陥っていました。同社はこの危機を打開するため、主力商品である油圧機器の特注品製作に注力する方針を打ち立てることにします。この結果、受注は増えたものの、別の問題も生まれてしまったといいます。
「特注品の製作は仕事が複雑になりますし、営業から設計への情報伝達はこれまで以上に精度が求められるため、既製品と比べても手間暇がかかります。そのため、全体で見れば仕事は減っているにもかかわらず現場は混乱し、営業と設計は毎晩遅くまで残業する状況に陥ってしまいました」(今野氏)
混乱するばかりの職場環境を変えるために、今野製作所は2010年に、業務の1つひとつの流れを検証し、改善していくプロジェクト「業務見える化プロジェクト」をスタート。専門家の指導を受けて、丸1年がかりで取り組みました。
このプロジェクトの結果、今野製作所では多くの業務プロセスにおいて、「人」に依存した構造になっていたことが判明しました。
例えば、購買機能を担う部署がない同社では、外注手配や部品手配の業務も、設計担当者や営業担当者がケース・バイ・ケースで、“自分の当然の業務”と認識して行っていました。このように仕事が一連の業務機能の流れ(プロセス)として認識されていない状態では、何かトラブルが起きたときには、担当者の問題、人の問題になりがちです。リーマンショック後に生じた社内の混乱も、従来の業務プロセスを放置していたことが原因であることが分かりました。
「当時は業績が低迷しており、コンサル料を支払える状況ではありませんでした。コンサルタントの勉強会の題材に当社を業務事例として使用してもらう条件で、実質的に無償で協力してもらえました」(今野氏)
人に依存した業務プロセスを見直すために、今野製作所は社内の業務をすべてITで連携する取り組みを開始。具体的な施策としては、問い合わせから受注までの情報共有と技術提案仕様書の作成における業務を管理することを目的に、サイボウズ社が開発した業務改善プラットフォーム「Kintone(キントーン)」を導入しました。
「Kintoneは、プログラム開発言語を使わない“ノンコーディング”でアプリケーションの開発ができるクラウドサービスです。Kintoneを使うことで、業務の流れと進捗を可視化して共有でき、業務の手戻りも防げるようになり、受注までのリードタイムが短縮できました。従業員同士でデータがつながることで、まるでサッカーでパスを回すように、チーム力を発揮できるようになりました」(今野氏)
さらに、生産業務の基幹となるシステム開発にも着手しました。今野氏は以前より、受注→発注→生産に至るまでの状況が把握できる生産管理システムの必要性を感じていましたが、実現には至りませんでした。というのも、同社は製造工程の異なる事業を複数行っているため、見込生産(MTS)、受注組立生産(BTO)、繰返受注生産(MTO)、受注設計生産(ETO)など複数の生産方式が存在しており、それらに対応するシステムの構築が困難でした。
しかし同社は、なんと自社開発で生産管理システムを作り上げてしまいます。
「当時親交があったインダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ※の西岡先生(法政大学 デザイン工学部 西岡靖之教授)のアドバイスを受け、ノンコーディング開発ができる『Contexer』というツールを導入しました。データベースの設計については有償で専門家に作成を依頼しましたが、それ以外は自社で構築しました。
その結果、受注・出荷、調達、生産などの一連の業務のシステム化に成功しています。現在も使用しており、追加のシステム開発も社内の人材だけで行うことができています」(今野氏)
※一般社団法人 インダストリアルバリューチェーンイニシアティブ…ものづくりとICTを融合した業務改革について企業の枠を超えて取り組む企業のためのフォーラム。法政大学 デザイン工学部 西岡靖之教授が理事長を務める。
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今野 浩好(こんの ひろよし)
1996年、今野製作所に入社。2003年、代表取締役に就任。2016年からは一般社団法人 インダストリアルバリューチェーンイニシアティブ(IVI)の理事も務める。
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