オフィスあるある4コマ(第11回)
チャットも会議も電話もマルチタスクを1台で
2021.03.10
自然災害や感染症への対策など、事業継続を脅かすリスクに企業はどう備えればよいのでしょうか。SOMPOリスクマネジメント 首席フェローの髙橋孝一氏に聞きました。
<目次>
・BCPと防災マニュアルは明確に違う
・コロナ禍に求められるBCP対策とは
・受け身のBCPは経営に負担になる
・電話帳のようなBCPをつくってはいけない
・「儲かる」「役立つ」「誇れる」のがBCP
BCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)とは、企業が風水害や火事、サイバー攻撃などの緊急事態に遭遇した場合に、事業資産への損害を最小限にとどめながら、事業を継続できるよう方法や手段を取り決めておく計画のことです。日本では特に地震や台風など自然災害が多いことを考慮すると、BCPの作成は企業にとって必須といえます。
ところが、中小企業のBCP策定はあまり進んでいないという現状があります。帝国データバンクが2020年5月に実施した「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査」(https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p200606.html)によると、BCP策定の意識は高まっているものの、実際にBCPを策定したという中小企業の割合は、わずか13.6%にとどまっています。
2010年以降だけでも東日本大震災(2011年3月)、熊本地震(2016年4月)、台風15号(2019年9月)など多くの大規模な自然災害が起きています。BCPの重要性がクローズアップされる機会があったにもかかわらず、なぜ中小企業のBPC策定率が低いのでしょうか。
SOMPOリスクマネジメント 首席フェロー(リスクマネジメント)で、事業継続推進機構*の副理事長を務め、中小企業庁の「BCP策定運用指針」策定やBCP関連のガイドブック作成にも携わった髙橋孝一氏は、BCPの策定率が低い理由について「多くの企業が『防災マニュアルがあるから大丈夫』と考えてしまっています」と指摘。その上で「防災とBCPとは明確に違うため、防災マニュアルだけでは不十分です」と注意を促します。
*事業継続推進機構(BCAO):BCPやBCM(事業継続マネジメント)の普及・啓発や調査・研究を目指して2006年に設立された民間の非営利団体(特定非営利活動法人)。事業継続普及啓発セミナーの開催や講師の派遣、事業継続専門家を育成するカリキュラム・教材の開発および事業継続専門家育成講座の開催、事業継続に関する標準テキストの発行といった事業を行っている
防災は「身体の安全と財産を守ること」が目的であるのに対し、BCPは「企業を存続させること」が目的である点が異なります。髙橋氏も「取引先に対して、商品やサービスの供給責任を果たすために取り組むのがBCP」だと説明します。この「取引先」に対する観点が、BCPにおける重要なポイントです。
「防災は従業員と家族のためであるのに対し、BCPは取引先のためのものです。ですからBCPは防災マニュアルと同様に、どの企業でも準備しておくことが必要なのです。
製造業を例に取りましょう。地震などの自然災害が起こった際に、従業員の安否や工場など企業資産の被害に関する情報を収集し、確認するところまでは防災マニュアルの範囲です。ですが、原材料が調達できるか、製造を再開できるのか、といったことになると、防災マニュアルでは対応できません。ここはBCPの出番というわけです」(髙橋氏)
人々の社会的行動に大きな影響を与え、ビジネス環境を激変させた新型コロナウイルス感染症の拡大も非常事態に含まれます。しかし、感染症に対するBCPを策定していた企業はほんの一部で、BCPを策定済みだった企業でも、そのほとんどは自然災害や事故を想定したものでした。
「大企業の中には2009年に新型インフルエンザが流行した時に、感染症関連のBCPを策定した企業もありました。ただしその内容は、当時の通信環境が現在とは大きく違うこともあり、“感染に注意しながら出勤する”といったものでした。2020年以降のコロナ禍への対応では、 “BCPがあったために慌てずに済んだ”という企業は、残念ながら多くありません。
それでも、ネットワーク環境やクラウドサービスなどのシステム環境が整いつつあったタイミングだったため、感染拡大を防ぐために多くの企業で一気にテレワークが進むなど、なんとか働き方を変えることができました。これが期せずしてBCPの訓練となりました」(髙橋氏)
コロナ禍におけるBCP対策としては、事業継続だけでなく、緊急事態宣言などによる企業活動の自粛への要請に対し、どこまで対応するかについても考える必要があると、髙橋氏は主張します。
「たとえ緊急事態宣言が発令されたとしても、組織の存続に不可欠な事業、社会機能維持に関わる業務をどのように継続するか、一方で事業継続のために積極的にストップすべき業務が何なのか、あらかじめ決めておくことが大切です」(髙橋氏)
事業を取り巻く環境が大きく変わってしまったときは、BCPの考えに基づけば、いったんその事業を止めて、資金繰りを確保しながら再開後の収益の予想をします。このコロナ禍でも、事業を撤退するケースが実際に起きました。
「長期間事業を停止せざるを得なかったり、操業度が大幅に低下したりして、再開・復旧しても経営が継続できないと見込まれる場合、事業からの撤退を選択することになります。今回は観光業などで見られました。
既存事業の継続が難しいときは、撤退だけでなく新規事業という選択肢もあります。今回の例では、家電メーカーが工場の設備を生かしてマスクを作るなどの動きがありました。これまでの事業をやり続けるだけがBCPではありません。会社を存続させることが最も重要ですから、新しい事業を始めることも策の1つとなります」(髙橋氏)
SOMPOリスクマネジメント株式会社
首席フェロー(リスクマネジメント)
髙橋 孝一 氏
髙橋 孝一(たかはし こういち)
横浜国立大学工学部化学工学科卒業後、安田火災海上保険株式会社に入社。2010年、安田リスクエンジニアリング(現:SOMPOリスクマネジメント)取締役執行役員リスクコンサルティング事業部長。2017年から現職。内閣府「事業継続策定・運用促進方策に関する検討会」委員、中小企業庁「事業継続計画策定委員会」委員などを歴任。
ニューノーマル処方箋
2022年5月20日(金)① 14時00分〜15時00分(予定)② 18時00分~19時00分
テレワーク関連
新型コロナウイルスの影響もあり、企業におけるテレワークの導入が拡大しました。
一方でまん延防止等重点措置が解除され、今後どのような働き方を目指すべきか迷われる企業様も増えているのではないでしょうか。
本セミナーでは日本テレワーク協会の村田瑞枝氏をお招きし、これからのテレワークのトレンドや、コミュニケーションのあり方についてお話いただきます。
ぜひこの機会にご参加ください。
2022年3月7日(月)~2023年3月31日(金)
法改正関連
2023年導入予定のインボイス制度の対応の準備はできていますか。インボイス制度は、複数税率に対応した消費税の仕入税額控除の方式として導入されます。仕入額控除の要件として、適格請求書発行事業者が発行する「適格請求書」の保存が必要となります。本セミナーではPwC税理士法人 村上 高士氏をお招きし、課税事業者の皆さまの立場で、インボイス制度導入後に何が変わり、どのような影響があるのかを解説します。