これからのビジネスをつくるための「サービスデザイン思考」(第9回)「まがいもの」を「ほんもの」にする文化のデザイン

経営全般 スキルアップ

公開日:2023.10.31

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「価値転換」をもたらすアートの視点

 前回のコラムでは、新しい価値を生み出すためには、既存の常識や合理性から距離を取ることが大切だと述べました。新しい価値とは、既存の意味のシステム(価値体制)を解体し、再構築することで生まれてくるもので、このような考え方を哲学者のフリードリヒ・ニーチェは「価値転換」という言葉で表現しました。これは、従来の価値の序列を転換することによって、これまで下に見られていたものや、軽蔑されてきたものの価値が急浮上するような現象が起こることをさしています。

 価値転換の典型的なものがアート(芸術)です。特に近代以降のアートは、既成概念に対する批判精神から生まれ、既存の意味のシステムを打ち壊した先に浮かび上がる「何か新しいもの」を創り出すことに重きが置かれてきました。

 京都大学経営管理大学院・山内裕教授の言葉を借りるなら、既存の意味のシステムで説明がつかないということは「無意味」に見えるものです。しかし「無意味」は実に面白いものでもあります。意味がないということは、現時点の常識から見ると「正統ではないもの」「邪道なもの」として扱われることにもなりますが、アートの世界ではこの「無意味なもの」を「すごいもの」として扱うのです。これはどういうことでしょうか?

 それはアートが、既存の意味のシステムでは「無意味」であっても、時代の流れや社会の変化によって意味のシステムが変化し価値転換が起こる中で、「いずれ意味を持つ可能性があるもの」を見つけ出し、形を与え、世の中に提案する営みだからなのです。そういう意味で、第7回のコラムで紹介した「意味のイノベーション」はアートに通じるものがあるのかもしれません。

 自身が名画の登場人物にふんする作品で有名な芸術家の森村泰昌氏は、著書の中で美について次のように語っています。

美とは未来に向かって振り返ることであり、そしていつも美はまがいものとして現れるのです。
(『美術の解剖学講義』ちくま学芸文庫、2001年)

 新しい美が提案される時点では、その美は既存の意味のシステムの中では「まがいもの」として見られることもあります。しかし、その「まがいもの」がいずれ正統なものとして扱われていく過程こそが、新しい価値体制を生み出すアートという行為である、と森村氏は述べています。

社会の「あたりまえ」をつくる文化のデザイン…

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執筆=井登 友一

株式会社インフォバーン取締役副社長/デザイン・ストラテジスト。2000年前後から人間中心デザイン、UXデザインを中心としたデザイン実務家としてのキャリアを開始する。近年では、多様な領域における製品・サービスやビジネスをサービスデザインのアプローチを通してホリスティックにデザインする実務活動を行っている。また、デザイン教育およびデザイン研究の活動にも注力し、関西の大学を中心に教鞭をとる。京都大学経営管理大学院博士後期課程修了 博士(経営科学)。HCD-Net(特定非営利活動法人 人間中心設計推進機構)副理事長。日本プロジェクトマネジメント協会 認定プロジェクトマネジメントスペシャリスト。

【T】

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