「事業承継」社長の英断と引き際(第3回)父の会社をニッチ市場でトップにして、息子に承継

事業承継

公開日:2019.04.22

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愛工舎製作所(業務用ミキサーの開発・製造)

 少子高齢化が進む中、中小企業の事業承継が課題になっている。後継者が見つからず倒産してしまう会社もあることなどに危機感を覚えた政府は支援を強化している。ただ、事業承継の主役は、経営者であり、自らが考え、動かないと何も解決しない。いつ、どのタイミングで承継するのがベストなのか。本連載は、承継を決意した経営者に話を聞いた。

牛窪 啓詞(うしくぼ けいじ)
1945年、埼玉県蕨市生まれ。浦和高校卒業後、早稲田大学政治経済学部に進学。病気がちな父・平作氏の跡を継ぐため、卒業後すぐに愛工舎製作所に入社。1974年、29歳のときに社長に就任。自社製品の開発・改良に努めるのと同時に、積極的に海外展開も進めた。2016年、長男の洋光氏に事業を承継し、同社会長に就任

 第3回は埼玉県戸田市の愛工舎製作所。パンやピザを焼くオーブンやミキサー、発酵機などを開発・製造する。製パン・製菓機器というニッチ市場で確固たる地位を築き、国内外の有名チェーンで導入されているだけでなく、世界が注目する気鋭のシェフからも指名買いされているという。牛窪啓詞会長は、2016年に現社長の洋光氏に事業を承継したが、自身もまた、2代目として父の平作氏から会社を受け継いだ経験を持つ。牛窪会長に話を聞いた。

 愛工舎製作所の創業者である父・牛窪平作氏の長男として、牛窪啓詞会長は生まれた。待望の男の子だった。姉2人と妹1人の4人きょうだい。幼い頃から後継ぎとして育てられたという。

 平作氏の事業のスタートは、米や味噌を売る小さな個人商店だった。その後、1938年に牛窪鉄工所を設立。かき氷を作る氷削機で基盤を固めた。戦後、急速に洋食文化が広がったことに注目した平作氏は、パンやケーキを作るためのミキサーの開発に着手し、愛工舎製作所と改名した。

 平作氏は体が弱かったこともあり、牛窪会長は大学卒業とともに、すぐに愛工舎製作所に入社した。最初の1年間は、工場で真っ黒になって働いた。現場での「不便」「不具合」「不満」を見つけては、いくつもの改善策を提案したという。

 社員は年上ばかり。指揮するためには役職が必要だと訴え、2年目に専務に就任。病気で休みがちな父親に代わり、経営を担うようになる。「任されたというより、やるしかない状態だった」と牛窪会長は当時を振り返る。

イノベーションと挑戦で成長…

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執筆=尾越 まり恵

同志社大学文学部を卒業後、9年間リクルートメディアコミュニケーションズ(現:リクルートコミュニケーションズ)に勤務。2011年に退職、フリーに。現在、日経BP日経トップリーダー編集部委嘱ライター。

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