「事業承継」社長の英断と引き際(第20回)「まねはすな」、代々初代と考える創業者(後編)

事業承継

公開日:2020.09.24

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タビオ(靴下の企画・卸・小売り)

 事業承継を果たした経営者を紹介する連載の第19回と第20回は、「靴下屋」や「Tabio」などの靴下販売チェーンを展開するタビオの創業者、越智直正会長。

越智直正(おち・なおまさ)。1939年愛媛県生まれ。55年に中学校を卒業後、大阪のキング靴下鈴鹿商店に入社。68年に独立し、靴下の卸売業としてダンソックスを創業。82年に小売りに進出し、84年にフランチャイズ展開を開始。2000年10月、大証2部に上場(13年に東証2部に市場変更)。08年5月、長男の越智勝寛氏に事業承継し、代表取締役会長となる

 長男を後継者とすることを当然と考えてきた越智会長は、25歳まで自由にさせてきた勝寛氏を入社させ、承継の準備を整え、実現させた。用意周到な越智会長は、承継前、それを見越した大胆な布石を打った。承継の2年前に社名を変更するという大きな決断だ。

 「福島県郡山市で薄皮饅頭を作っている柏屋さんが、“代々初代”というスローガンを掲げているんです。その話を聞いて感動したので、息子に自分が好きな新しい社名を考えるように言いました」(越智会長)

 勝寛氏が考えた社名は「タビオ」だった。「The Trend And the Basics In Order(流行と基本の秩序正しい調和)」という言葉の頭文字をとった社名だ。さらに「Tabioをはいて地球を旅(タビ)しよう、足袋(タビ)の進化形である靴下をさらに進化させよう」という意味も込められているという。

 「私が創業から慣れ親しんできたダンという名前には、もちろん愛着も未練もありました。だけど、そこにしがみ付いていたら承継なんかできません。承継が決まったとき、『今日からお前がタビオの初代や』と伝えました」(越智会長)

 ダンはタビオへと名前を変え、勝寛氏をリーダーとして新たな時代のスタートを切った。越智会長は会社の経営はすべて勝寛氏に任せた。そして、自分は得意な商品づくりに専念している。

 承継から10年余りがたった今、勝寛氏の経営をどのように評価しているのだろうか。「僕と一緒でそんなに賢くはありません。だけど、その分一生懸命やってますわ。それだけで十分だと思いますね。僕と一緒で、ただ真面目にやっとるだけ。僕の子やもん。むしろ、優秀過ぎたら僕の子やないと疑わないかん(笑)」

越智会長(左)と、長男で現社長の勝寛氏。「性格も顔もそっくりなんですわ。でもそう言うと息子は、そんなことないと怒るやろな(笑)」(越智会長)

 今後、勝寛氏に期待することは、「世界に日本の靴下を広げていってほしい。世界でも日本の靴下は最高レベルといわれていて、独特の繊細さと器用さがある。海外生産が増え、創業した頃一緒に商売をしていた仲間も多くが辞めてしまいました。本当にええもんを作れるのは、今日本でうちの協力企業くらいしかないのではないかなと思っています。日本の靴下は履いてもらったら全然違うのが分かってもらえます。海外の人でもきっと病みつきになると思います」と越智会長は語る。

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執筆=尾越 まり恵

同志社大学文学部を卒業後、9年間リクルートメディアコミュニケーションズ(現:リクルートコミュニケーションズ)に勤務。2011年に退職、フリーに。現在、日経BP日経トップリーダー編集部委嘱ライター。

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