企業版マイナンバーである「法人番号」の利用が始まった。厚生年金の未加入、税務調査の精度向上という管理強化の面がある一方で、許認可申請の簡素化などプラスもあり、法人番号の存在をもっと意識すべきだ。
2016年1月から利用が始まったマイナンバー制度。個人番号と同時に、企業版マイナンバーといわれる「法人番号」の利用が始まっている。中小企業経営者の関心はまだ薄いが、その影響は次第に大きくなりそうだ。
法人番号は設立登記されている法人、国の機関、地方公共団体に13桁の番号が振られるもの。15年10月から郵送で通知された。また、登記のない団体でも、法人税や消費税の申告納税義務または所得税の源泉徴収義務などがある場合は法人番号が指定される。個人番号は厳しい管理が求められるが、法人番号は公開され、国税庁の法人番号公表サイトで、法人番号、名称、所在地が検索できる。
信用情報にも法人番号が表示される…
法人税では16年1月以降に始まる年度の申告書から、支払調書や源泉徴収票などの法定調書は16年1月以降の金銭の支払いに関するものから、法人番号の記載が必要になる。
法人番号の利用目的は次のようなものだ。(1)法人に関する情報管理の効率化(2)各種申請時の添付書類削減など手続き簡素化(3)公平・公正な社会保障・税制の実現(4)民間の活用による価値創造。(1)については、従来から各省庁や税務署が企業に事業者番号を割り振っていたが、この番号は行政機関ごとに別々であることが多く、省庁間にまたがるデータを同じ企業のものか判別するには、名称、住所などを照合していた。この方式を改め、全行政機関で共通の番号を割り振る。このため、法人番号を含む複数のデータが同じ企業のものかを判断する「名寄せ」が今までより容易になる。
その特徴を生かし、厚生年金の未加入調査や税務調査などの精度向上に活用する。厚生労働省は、厚生年金や健康保険に未加入の企業を見つけるために、所得税を納める企業の法人番号と保険料を納める企業の法人番号を照合し、未加入をあぶり出していく予定だ。国税庁も、納税申告の妥当性を調べるために活用する。「より正確かつ効率的な法定調書の名寄せが可能となり、(中略)所得把握の精度の向上が期待できる」(国税庁報道係)。
また、民間の活用の一例としては、帝国データバンクや東京商工リサーチが提供する企業データに法人番号を表示し始めた。取引先の信用情報を企業が調べる場合、法人番号をキーにして複数の情報を照合できる。
今後は、社名変更の登記にも法人番号が必要になるので、社名を変えても同一法人であることを判別しやすくなる。従来は大きな不祥事を起こした会社が社名を変えて出直す例もあったが、これからはこの手が通用しにくくなる。企業は今まで以上に襟を正すことが求められる。
攻めの活用を考えよ
ただし、こうした点は、取引先の情報を従来より精密に管理できるメリットにもなる。そこで、「守りと攻めの両面で、法人番号をどう使うか考えるべき」(東京商工リサーチの友田信男情報本部長)
例えば、取引先の与信管理。従来は社名表記の間違いや揺れにより、同じ企業が別々の企業として認識され、与信枠を超える取引が見逃されるケースがあった。法人番号を使えば、より確実に与信を判断できる。また、今後、省庁の連係が進むと、各種の申請手続きが楽になる。補助金の申請に登記簿の添付が不要となることなどが考えられる。さらに、個人事業主は屋号のみ法人であるかのようにして営業していると、その違いが分かるようにもなる。信頼維持のための法人登記が検討課題に上りそうだ。
日経トップリーダー/宮坂賢一
※掲載している情報は、記事執筆時点(2016年4月)のものです