わずか31歳で大峯千日回峰行(おおみねせんにちかいほうぎょう)という苦行を成し遂げた塩沼亮潤大阿闍梨。2017年を迎え、変化の激しい環境の中で経営者はどうあるべきか。苦行の経験、信仰の見地から心新たにめざす道を聞いた。(聞き手は、日経BP中小企業経営研究所 副所長 伊藤暢人)
──塩沼亮潤大阿闍梨は、高校卒業後、奈良県吉野山の金峯山寺(きんぷせんじ)で出家得度。4年後、高低差1300m以上の険しい山道48㎞を1日16時間かけて1000日間歩く難行、「大峯千日回峰行」に挑みました。山開きの120日間、死の淵を経験しながらも9年間をかけて4万8000㎞を踏破し、31歳で満行。金峯山寺1300年の歴史の中で2人目の大阿闍梨となりました。この行にいったん入れば、達成できない場合には、自ら命を絶たなければならないという過酷なおきてがあります。修行に挑むに当たり、ご自身の中に不安はなかったのでしょうか。

(写真/阿部勝弥)
塩沼:今だから客観視できるのですが、達成できるのだろうか、もしできなかったらどうなるだろうかという気持ちは、百万分の一もありませんでした。起こるかもしれない試練に対し、一切の不安も迷いもなかったのです。
私は貧しい幼少期を過ごしました。周囲の方々に支えられて生きてきたのです。その経験などから、少しでも皆さんのお役に立てる人になりたいと考えていました。
そんな小学生の時、テレビで比叡山千日回峰行を満行された酒井雄哉大阿闍梨の姿を拝見しました。私自身が1つの夢に向かう中、どうしてもこの行を成し遂げたいと決意し、生きてきたところがあります。ですから、心の内にあるのは、燃えたぎるような情熱だけでした。
入念な準備こそが自信に
──大きな目標のための準備も怠らなかったということですか。
塩沼:はい、揺るぎない自信の裏には、しっかりとした準備がありました。実は、修行僧としてお寺に入山してからの4年間、決して誰にも言わず、修行と勉強の後には欠かさず何キロか山を走り、坂を上り下りするトレーニングを続けてきました。
また、大峯千日回峰行の間も、抜かりのない準備をしていました。行者は消毒薬やロウソクなど、38種類の道具を携えて山道を歩きます。ところが日々、肉体的、精神的に追い込まれていくと、どんなに確認しても、道具を落としたり忘れたりしてしまうことがあるのです。
例えば、ロウソクは夜中12時半に出発し夜明けまでの4時間で3本を使います。そこで、ロウソクを1回目に変える場所に、あらかじめビニールにくるんで埋めておくのです。そうすれば、忘れても備えがありますから安心です。やむを得ず使った後は、翌日必ず補充をしておきました。
準備はどんなときでも、し過ぎるということはありません。備えあれば憂いなしという言葉は、会社の経営にも通じるものだと思います。
私は、行を続けている間は、皆の前ではワーッと猪突(ちょとつ)猛進のような雰囲気でおりました。でもその裏では、どう転んでも、絶対に死なないというよう石橋をたたくほどの備えをしていたのです。
──大阿闍梨の強いメンタリティーはどこから来るのでしょうか。… 続きを読む
塩沼 亮潤(しおぬま・りょうじゅん)
1968年宮城県生まれ。86年東北高校卒業。87年奈良県、吉野山金峯山寺で出家得度。91年大峯百日回峰行満行。99年金峯山寺1300年の歴史で2人目となる大峯千日回峰行満行を成し遂げる。2000年に四無行を満行。03年宮城県仙台市秋保に慈眼寺を開く。06年八千枚大護摩供満行。大峯千日回峰行大行満大阿闍梨(大峯千日回峰行を成し遂げると授与される証)。『人生生涯小僧のこころ』(致知出版社)など著書多数
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