ユニチカ代表取締役社長 注連浩行 氏

コア事業への集中と目標の明確化が大切と語る注連社長
今年創業130周年を迎える、大手繊維メーカーのユニチカ。前回の東京オリンピックでは、同社(当時:ニチボー貝塚)の選手が、バレーボール競技で大活躍、“東洋の魔女”と呼ばれ、日本中を熱狂させた。その後、新興国の台頭などで業績は右肩下がりの傾向が長らく続いていたが、2014年に大規模な構造改革に着手、回復が軌道に乗り始めている。反転のポイントとなったのは、いったい何か。代表取締役社長の注連浩行氏に話を伺った。
――まず、最近の業績からお教えいただけますか?
2018年3月期は、売上高1283億円、営業利益116億円、経常利益99億円、当期純利益80億円で、前年比増収増益になりました。実はこの決算はユニチカにとって大きな意味を持っています。
私どもは高分子事業、繊維事業、機能材事業という3つの事業を柱としています。2018年3月期の売上高では、祖業である繊維事業を高分子事業が上回ったのです。高分子事業が46%、繊維事業42%、機能材事業10%となっています。
――ユニチカといえば、繊維の名門というイメージがあります。実際は、事業内容は大きく変わっているのですね。歴史があればあるほど、こうした構造改革は難しかったのではないでしょうか?
一言で言えば“退路が断たれた”ということ。やるしかない状況に追い込まれたのです。
経緯をお話ししましょう。ユニチカは1889年に設立された尼崎紡績を母体としています。明治の中期から日本では軽工業の発達が進みますが、その中心となったのが紡績業でした。弊社も東洋紡さん、鐘紡さんとともに三大紡績の一社として紡績業をけん引していきます。
第二次大戦後は化学繊維の時代になりますが、子会社の日本レイヨンでナイロン繊維、ポリエステル繊維といった新しい化学繊維の生産を進め、1969年に日本レイヨンを合併してユニチカが生まれます。ただこの頃から韓国、台湾などの追い上げがあり、日本の繊維業界は次第に厳しくなっていきます。
その対応として、繊維業界の各社が多角化に乗り出したのは1970年前後のことです。ユニチカでもポリマーの技術を生かし、世界初のナイロンフィルムを開発しています。さらに1990年代になると、韓国、台湾に加え、中国からの繊維製品の輸入が急増しました。弊社の売り上げも1991年の3900億円をピークに右肩下がりになり、2000年代に入ってもその傾向に歯止めがかかりませんでした。
こうした状況の中、不採算部門を縮小したり、コストダウンを図ったりするなど、一定の対策は講じていました。しかし、結果からいえば抜本的な対策ができていなかったように思います。その要因は、資産を持っていたことです。古くからの紡績会社はどこも大きな工場を持っていました。原材料や製品を運ぶ都合上、工場は基本的に鉄道の沿線にあり、交通の便が比較的良かったのです。工場を閉鎖して土地を売却したり、有効活用したりすれば、本業の不振をカバーできました。
繊維メーカーの中には、住宅事業や化学品事業などに事業の軸足を移すことに成功したケースもあります。しかし、当社は多角化を図ったものの、業績が振るわず、遊休資産などの活用に頼ってしまった時期がありました。しかし、2010年を過ぎた頃からそうした方法も難しくなり、抜本的な対策が求められるようになりました。
――2014年には金融機関からの支援を受けました。大きな判断だったのではないでしょうか?
その時点でも、実は支援を受けなくても事業を継続しようと思えばできました。しかし、それでは今までと同じ結果になる可能性が高く、若い人の将来、そして会社の未来を考えたら、この際、将来のリスクを軽減し、注力すべき事業に経営資源を投入すべきだと判断しました。その方が成長に向けてのエンジンが点火しやすいという考えです。
そこで、金融機関やファンドからの協力を仰ぐことにしました。本当に極秘のプロジェクトとして、作成した新しい経営計画を、メインバンクを始めとした金融機関などにご理解いただけたのは大きかったですね。
――新生ユニチカに向けての構造改革のポイントになったのはどこですか?… 続きを読む
注連 浩行(しめ・ひろゆき)
1952年生まれ、関西学院大学卒業。1975年ユニチカに入社しフィルム事業に従事。経営企画本部長、取締役常務執行役員などを経て2014年6月に代表取締役社長執行役員就任。
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