「事業承継」社長の英断と引き際(第15回)後継者のために“個人保証”を外す努力を

事業承継

公開日:2020.04.30

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メイツユニバーサルコンテンツ(趣味・実用書などの編集・出版事業)

 事業承継を果たした経営者を紹介する連載の第15回は、東京都千代田区でスポーツ分野の指南書をはじめ、趣味・実用書、エリアガイドなどを出版するメイツユニバーサルコンテンツ(旧メイツ出版)。同社の共同創業者であり、2016年に先代から事業承継を受けた三渡治社長に経緯を聞いた。

 メイツユニバーサルコンテンツ(以下メイツ)の前身は、大手書店丸善グループの出版事業子会社・丸善メイツだ。三渡社長は大学時代に同社でアルバイトをしており、そのまま入社。書店の販売部門を経て編集部門に異動となり、書籍の企画・編集に携わった。

 なかなかヒット作が生み出せず苦しんだ時期もあったというが、1993年に三渡社長が企画・制作したガイド本『子どもと出かける東京あそび場ガイド』がヒット作となった。まだSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)がない時代に、地域の母親が所属するサークルなどを通して情報収集の仕組みを構築し、全国展開を始めた。

 ところが、1990年代後半、丸善グループが再編されることになり、出版事業部の売却が検討されることになる。三渡社長は「当時、シリーズで200万部を突破していたあそび場ガイドを自分たちの手で継続させたい」と考えた。思いを同じくする、経理を担当していた前田信二氏と営業を担当していた斎藤俊行氏の3人で、丸善に事業譲渡を申し出た。そうして、「EBO(エンプロイ・バイ・アウト/従業員による買収)」の形で、書籍出版の権利と在庫を買い取り、1999年にメイツ出版を設立した。いわゆる、現代版ののれん分けだ。

(みわたり・おさむ)1962年横浜市生まれ。成蹊大学文学部中退。86年丸善メイツ入社。99年に丸善メイツの買収とメイツ出版(現・メイツユニバーサルコンテンツ)の設立に携わる。副社長を経て、2016年に同社社長に就任。

ガイドブックからとがったスポーツ指南書にシフト

 前田氏が三渡社長の9歳上、斎藤氏が7歳上で、三渡氏は最年少。まずは、最年長の前田氏が初代の社長に就任した。ただし、メイツでは複数人で組織運営する「トロイカ体制」を選択。株式も前田氏が40%、斎藤氏と三渡社長が30%ずつを保有し、誰も過半数に達していない。つまり、1人では意思決定できず、必ず自分以外に1人の賛同が必要という体制だった。また、3人にはそれぞれ子どもがいたが、設立時から「自分たちの子どもには承継しない」ことを合意していたという。

 「自分の父と自分を考えても、まったくタイプが違う。血縁だけで経営を譲っていけるほど甘い世界ではないだろう。歴史を持ち、体制の整った中小企業なら可能かもしれないが、自分たちのようなスタートアップは、血縁での承継はできないというのが、3人共通の意見だった」(三渡社長)

 メイツの出版事業は順調な滑り出しを見せ、あそび場ガイドを次々に全国展開。宮崎県以外すべての都道府県をそろえた。子育てガイドから派生して、子連れで行けるバーベキューガイドやテーマパークガイドなども出版した。こうして、地域に根差したガイドブックを得意として業績を伸ばしてきたメイツだが、2000年代にインターネットが普及し、あそび場ガイドのニーズが減少する。三渡社長が次の柱となる分野として選んだのは、スポーツ分野の指南書だった。

 同社では、メジャーなスポーツより、水球やレスリングなど競技人口の少ないスポーツを対象にした本を数多く手がけている。野球やバレーボールなどメジャーなスポーツの場合は、『流れを引き寄せる! バレーボール サーブ 必勝のポイント50』や『ゴール下を完全制覇! バスケットボール センター 上達のコツ50』など、ポジションや技に絞っている。「東京五輪で実施される33競技のうち、当社は25競技、100点以上の関連書を出版している」と三渡社長は胸を張る。

マイナー競技や、ポジションを絞ってスポーツの指南書を出版。元プロスポーツ選手などに監修を依頼し、写真入りで手法を細かく説明する

 リアル書店とのネットワークを強めた販売方法にも着手している。書店チェーンの本部にメイツ出版の営業担当が連絡し、個々の書店が欲しい冊数を「取り次ぎ」と言われる書籍専門の流通事業者に届けてもらう仕組みを確立中だ。例えば、大半の書店に「ホッケーなんてマイナーな競技の本は売れないのでいらない」と言われても、一軒一軒確認していくと「近隣にホッケーの強豪校がある」という書店と出合えるという。こうして、ニーズのある書店に指南書を置くことで、必要な読者に書籍が届きやすくなるというわけだ。

 一方で、インターネット書店でも同社の本はよく売れているという。「リアル書店の場合は印刷部数の多い大手出版社の本が目立つ所に置かれるため有利。しかし、デジタルの世界は平等です。大手だからとスマートフォンの画面が大きくなり、情報量が増えることはありません。私たちはジャンルを絞っているため、SNSのハッシュタグでも拡散されやすいというメリットがあります。ネット書店の普及は、私たちのような小さな出版者にとってはチャンスでもあるのです」と三渡社長は語る。

承継を決意するも対外調整が難航…

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執筆=尾越 まり恵

同志社大学文学部を卒業後、9年間リクルートメディアコミュニケーションズ(現:リクルートコミュニケーションズ)に勤務。2011年に退職、フリーに。現在、日経BP日経トップリーダー編集部委嘱ライター。

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