「事業承継」社長の英断と引き際(第32回)コロナ禍で雇用を守るためにM&Aを決意(前編)

事業承継

公開日:2021.09.22

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イマジンプラス(人材紹介・人材派遣)

 事業承継を果たした経営者を紹介する連載の第32回は、デジタル家電や化粧品などの販売スタッフの教育、派遣事業を展開するイマジンプラス(現:JWソリューション、ワールドスタッフィング)の創業者、笹川祐子氏。創業から23年間黒字経営を続けた同社だが、新型コロナショックが直撃し、2020年、一転赤字となった。「従業員のリストラはしたくない」と考えた笹川氏は、2021年1月にイマジンプラスの全株式を譲渡し、人材派遣大手のワールドホールディングスのグループに加わった。創業から売却を決断するまでの経緯を追った。

 笹川氏は北海道滝川市に生まれ育ち、札幌市内の女子大に進学した。卒業後、札幌で住宅インテリア系の出版社や古本屋チェーンで働いたが、仕事への思いが強過ぎたことが災いし、上司とすぐに衝突してしまい長く続かなかった。

笹川祐子(ささがわ・ゆうこ)
北海道生まれ。札幌市の大学を卒業後、出版社、古本屋チェーン、パソコンスクールを経て上京。パソコン、英会話スクールを経営する企業で総務を経験した後、1997年に人材派遣業を社内起業。2003年にMBO(マネジメントバイアウト)の形でイマジンプラスを設立。2021年全株式譲渡し、ワールドホールディングスのグループに加わり、社長を退任。現在、2012年に設立した人材教育・研修事業を行うイマジンネクストの社長を務める

 「社長になって、新卒社員に3年は続けましょうと偉そうなことを言っていますが、私自身は本当に失礼で生意気だったと反省しています」と笹川氏は苦笑いする。

 その後、25歳でワープロやパソコンのスクールを運営する会社に転職した。「ちょうどワープロからパソコンへと転換する時期でした。これからパソコンの時代になるから、と知り合いから紹介されたのがきっかけです」(笹川氏)。

 少人数のベンチャー企業だったため、営業、企画、採用、新規出店マーケティング、管理部門などあらゆる職種を経験し、数年後には20代で社長、常務に次ぐ役職にまでスピード出世した。

 「チームを持ち、マネジメントも経験させていただき、総務・経理をはじめ、会社経営についても学びました。上司に恵まれ、仕事はとても楽しかった。バブル景気で日本全体が活気にあふれていた時代でした。当時はまだ、起業したいという気持ちはありませんでしたが、仕事を通して世の中に貢献したいという思いは強くありました。お客さまのためになることを自ら企画し、承認を得るには出世するしかない。経営ボードの一角になりたいという思いはありました」(笹川氏)

 ここで、社長と一緒に資金繰りも経験させてもらった笹川氏は、キャッシュフローの大切さを実感したという。「社長が『キャッシュさえあれば、会社は潰れない』と話していたことを、私はずっと胸にとどめてきました。この言葉があったから23年間、黒字経営を続けてこられたのだと思っています」(笹川氏)。

パソコン黎明(れいめい)期に時流に乗って成長

 経営を学び、異業種交流会などにも積極的に参加する中で、笹川氏は東京を拠点にコンピューターや英会話スクールを経営するオーナーに熱心なヘッドハンティングを受けた。

 「まだ若かったので、東京に出て勝負したいなと思いました。私の祖先は、北海道を開拓した屯田兵です。そのフロンティアスピリッツを受け継いでいるのかもしれません」(笹川氏)

 30歳で東京に出てきた笹川氏は、新規事業に取り組みたいとオーナーに希望を伝え、3年間、総務で広報や採用の仕事をしながら新規事業を考え続けていた。その後、社員の男性と2人で新規事業に挑戦するチャンスを与えられた。だが、その時はまだ、何をやるかは決まっていなかった。1年ほど試行錯誤したものの、なかなかうまくいかなかった。

 「朝から晩まで、2人であらゆる手を尽くしても、思うように事業として芽が出ませんでした。夜遅くまで働き、閉店の30分前にお店に駆け込んで一杯飲みながら彼と反省会をするのが日課でしたが、ある時『一生懸命やっているのに、なぜ結果が出ないんだろう』と話し合い、自分たちの得意なことを真剣にやってみようと原点に戻ったんです」(笹川氏)

 一緒に新規事業に取り組んでいた男性社員はプログラミング関係の会社経営の経験があった。笹川氏はパソコンスクールでの経験が強みだ。世の中は1995年にちょうどインターネット対応をうたった「Windows 95」が発売され、まさに“ネット時代”が始まろうとしていた。市場調査のためにパソコン関連の展示会に行ったところ、各メーカーのブースで女性スタッフたちが接客をしていた。

 「当時、コンパニオンと呼ばれていた接客スタッフの女性と話してみると、CPUやメモリ、インターネットで何ができるかなど、パソコンの知識がほとんどなかったんです。外見が美しく接客スキルがあり、さらにパソコンの知識のある人材を育成できたら、ニーズがあるのではないかと考えました」(笹川氏)

1997年に社内の新規事業として創業後、2003年に笹川氏がイマジンプラスとして独立させた。パソコンの販売スタッフ派遣からスタートし、時流に乗って業績を拡大した

 1996年当時、自宅にパソコンを持っている若者はほとんどいなかった。そんな状況の中で大学生に「パソコンを教えます」と募集したところ、デモンストレーター希望者がたくさん集まったという。

 「彼女たちをしっかり教育し、『接客ができて、パソコン知識のある接客販売スタッフがいますよ』とメーカーに売り込みに行くと、すぐに『そんな人が本当にいるなら連れて来い』と言われました。そして、展示会で彼女たちが活躍するとそれを見て、別に出展していた大手メーカーも次々に『ウチにも派遣してほしい』と言ってきました。パソコン普及の時流に乗り、売り上げも右肩上がりに成長していきました」(笹川氏)

 社内の新規事業から始めた派遣スタッフ事業を、のちに子会社化して笹川氏が社長を務め、事業が成長した2003年に「MBO(マネジメントバイアウト)」の形で笹川氏が株を買い取り独立させた。それがイマジンプラスだ。

コロナ禍で赤字に転落、「M&Aをするしかない」…

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執筆=尾越 まり恵

同志社大学文学部を卒業後、9年間リクルートメディアコミュニケーションズ(現:リクルートコミュニケーションズ)に勤務。2011年に退職、フリーに。現在、日経BP日経トップリーダー編集部委嘱ライター。

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