「事業承継」社長の英断と引き際(第42回)「のれんを残したい!」老舗足袋屋6代目の奮闘(後編)

事業承継

2022.07.28

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エビス(足袋の製造・販売)

白記澄子(しらき・すみこ)
1973年大阪生まれ。神戸芸術工科大学を卒業後、広告制作プロダクション、博報堂を経て独立。2014年にエビスに入社し、6代目社長となる

事業承継のヒントを紹介する連載の第42回は、前回に引き続き「ゑびす足袋本舗」のブランドで足袋を製造するエビスのケース。1861年創業の老舗だが、5代目社長の経営により業績は悪化し、倒産の危機に陥った。そんな苦境に陥っていた上に、事業承継の準備を何もしていない状況で6代目社長に就任したのが、5代目社長の娘の白記澄子氏だった。どのようなプロセスを経て、事業承継を成し遂げたのだろうか。

 2014年に社長に就任した白記社長は、「足袋のことはまったく分からない。でも、6年後に控えた東京オリンピック・パラリンピックでは、日本文化に光が当たるはずだ。そこがチャンスになるはず。とにかくオリンピックまでは頑張ってみて、それでもしダメだったらきれいにたためばいい」と覚悟を決めた。

 まずは、財務状況を徹底的に洗い出し、クリーンな経営にするところから始めた。こうした財務の見直し、透明化は、本来、事業承継の準備として、先代経営者が必ず実行すべき項目だ。中小企業にありがちな経営者の公私混同による使途不明な支出などは、コンプライアンスの厳しくなった現在では許されない。それが発覚すれば、金融機関や取引先からの信用を失いかねない。

 「過去に会社を興したが、一から作るほうがよほどラク。負の遺産を持った会社を引き継ぐのは本当に大変でした」と振り返る白記社長からも明らかなように、事業承継を契機として、過去の負の遺産を整理するのは先代の役割だろう。ただ、エビスのケースでは、負の遺産とはいえ外部からの借入金がほとんどなかったのは、事業承継をする上で非常にプラスに働いたのは間違いない。

 同じ年に本社を移転。大所帯の頃のまま使っていた本社は家賃が高かったため、小さな賃貸物件に移った。そして、新しい本社の隣にアンテナショップを併設した。「足袋についての現状分析をしたところ、自分の足に合う足袋が見つからない“足袋難民”が多いと分かったんです。足袋の種類はたくさんあるが、それを知らない方が多過ぎる。触れる機会がない、それならば、お客さまに出向いていただけさえすれば、ご提供できる。お客さまの足を採寸し、お見立てする場所を作りたい。西日本には当時、その場でお客さまにお見立てするお店は1軒もなかった。また、お客さまが何を求めているかのリサーチにもなると考え、アンテナショップを開きました」(白記社長)。

2014年に大阪・玉造に開設したゑびす足袋本舗のアンテナショップ。口コミで評判が広がり、関東からも多くのお客さまが訪れるという

 業績が悪化している状況では、財務の見直しや家賃などの経費の削減だけでなく、なんらかの新しいチャレンジも必要。ただ、外部から老舗企業に入ってきた人材がそれをやろうとすれば、周囲との摩擦が生じる可能性がある。スムーズな事業展開を考えるなら、先代社長のバックアップの下、入社した人材が新事業として取り組み、実績を上げて新社長に就任というプロセスが理想的だ。そうした形がとれなかったため、白記社長に心労が降りかかった。

 それまでは呉服屋に足袋を卸すBtoBのビジネスモデルだけを展開してきたエビスにとって、消費者とじかに接するビジネスは初めての挑戦。そんな新たな改革を起こそうとする白記社長に抵抗する勢力もあった。「本社を移転して、さらにお店を出すとは何事か、女がしゃしゃり出てくるな、など、散々言われました。事情を知らない外部の人から見たら、私はいきなり会社に入ってきて、親を追い出して社長になった悪者なんですよ」と白記社長は当時を振り返る。

 何かと因縁をつけてお金を支払おうとしない取引先もあった。数時間かけて集金に行くと居留守を使われる。中には、毎日電話を掛けてきて、罵声を浴びせる呉服屋の店主もいた。心身は疲弊し、毎日這うようにして出社していたというが、白記社長は「何とか、オリンピックまでは……」と自分に言い聞かせて踏ん張った。

新商品「こたび」で勝負…

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執筆=尾越 まり恵

同志社大学文学部を卒業後、9年間リクルートメディアコミュニケーションズ(現:リクルートコミュニケーションズ)に勤務。2011年に退職、フリーに。現在、日経BP日経トップリーダー編集部委嘱ライター。

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