ロングセラー商品に学ぶ、ビジネスの勘所(第29回)

社員の欲求から生まれた「アンメルツ」と「ヨコヨコ」

2021.04.19

クリップについて

 デスクワークでPCに向かう時間が長くなるほど、肩こりが気になるものです。そんなときに活躍するのが、ジンジンする効果感でおなじみのアンメルツです。小林製薬がアンメルツを発売したのは1966年。50年以上にわたって愛され続けている、肩こり薬のロングセラーです。

 小林製薬の創業は1886年で、創業者の小林忠兵衛が名古屋に雑貨・化粧品・洋酒を販売する小林盛大堂を開いたのが歴史の始まりです。1919年には1912年に設立していた合資会社小林大薬房を合併して大阪に株式会社小林大薬房を創立し、頭痛薬「ハッキリ」などを発売します。1956年には製剤部門を分離して設立していた小林製薬株式会社を合併して小林製薬株式会社に社名を変更しましたが、卸売り事業が中心で自社製品の開発が課題になっていました。

 そんな1960年代前半のある日、同社の男性社員がデートに向かいました。しかし、相手の女性から「年寄り臭い」「かっこ悪い」と言われてしまいます。原因は、肩に貼っていた貼り薬。当時の肩こり薬は湿布などの貼り薬が定番で、それが洋服の下から見えてしまっていたのです。結局、男性社員は女性に振られてしまいました。

 男性社員はこれをきっかけに、「見えない肩こり薬」を発案します。それが認められ、貼り薬ではない、塗り薬の肩こり薬の開発が始まります。

 塗り薬は当時もありましたが、どれもがはけを使って塗るタイプでした。薬品の入った瓶は小ぶりなため、はけを薬品に浸すと瓶が倒れそうになり、もう一方の手で瓶を支えながら使う必要があります。

 片手で薬を塗れれば、便利なのではないか−−。そこで考えられたのが、容器の口に円形のスポンジを付けるという方法でした。容器を傾けるとスポンジに薬が染み込み、そのスポンジを身体に当てれば片手でも薬が塗れます。

 しかし通常のスポンジでは液体が大量に染み込み、薬が出過ぎてしまいます。そこで、さまざまな素材のスポンジを使って試行錯誤を繰り返しました。そして通常のスポンジより密度が濃い特殊なスポンジを開発し、薬が出る量を抑える方法を生み出します。患部に当てると薬がジュワッと適量にじみ出る「ラバーキャップ」の誕生です。

 ただ、いくら液体が染み込む量を抑えても、容器が倒れたらスポンジから薬が染み出してしまいます。そこで、スポンジの下に蓋を入れました。この蓋は、患部に押し当てたときなど、スポンジ部分に上から圧力がかかったときだけ開く仕組みになっています。

 こうして、こぼれにくく片手で手軽に塗れる肩こり薬「アンメルツ」が完成しました。

 アンメルツは1966年に特約店での試験販売を始め、1967年に全国販売を開始します。小林製薬は、自社開発製品の目玉としてアンメルツのキャンペーンに取り組みました。新聞・テレビ広告はもちろん、POPを薬局に配り歩き、電話口では「アンメルツの小林製薬です」と答えるなど全社をあげてプロモーションを行います。商品の利便性とこうしたプロモーションにより、アンメルツは大ヒット商品になりました。

 しかし、商品がヒットすると他社が追随するのは世の習いというものです。アンメルツにも類似商品が現れ、その影響で売り上げが少しずつ落ちていきます。

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執筆=山本 貴也

出版社勤務を経て、フリーランスの編集者・ライターとして活動。投資、ビジネス分野を中心に書籍・雑誌・WEBの編集・執筆を手掛け、「日経マネー」「ロイター.co.jp」などのコンテンツ制作に携わる。書籍はビジネス関連を中心に50冊以上を編集、執筆。

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