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日本の固有種で、国の特別天然記念物でもあるニホンライチョウ。分布は頸城山塊(くびきさんかい)、北アルプス、乗鞍岳、御嶽山、南アルプスと、日本の山の中でも高山のほんの一部に限られています。世界にライチョウの仲間は16種がいますが、その中でニホンライチョウは最南端に生息することから、特に貴重な種として保護されています。今回は「神の鳥」ともいわれるニホンライチョウ(以下ライチョウ)に注目してみましょう。
初夏は飛ぶ姿を見るチャンス
ライチョウは人に対して警戒心が薄いので、山で見かけることも多く、登山者にとって親しみのある鳥です。標高3000mほどに広がるハイマツ帯に生育し、小さなくちばしで草をついばむ姿を目にすれば、誰もがかわいいと思うでしょう。
おっとりとしていて、「飛ばない鳥」というイメージを持っている人も多いかもしれません。全長約35㎝と比較的大型で、丸っこく、重そうに見える体つきは、いかにも飛ぶことには不向きなように見えます。実際、登山道近くで出合ったとき、早足で逃げることはあるものの、ほかの鳥のようにパッと飛び立つことはあまりありません。ライチョウが大空を飛ぶ姿を見られるのはレアなのです。

夏はヒナを連れたライチョウを見かけることも。羽の色は保護色になっている(写真=萩原浩司)
でも、初夏のライチョウは特別な存在です。ライチョウは5~6月にかけてつがいをつくります。この時期は、オス同士で追いかけ回したり、突き合ったりと、激しい縄張り争いをします。エスカレートすると空中に飛び出し、縄張りに侵入したオスを長距離にわたって追い払います。残雪期の山では「グエー!」と叫びながら尾根から尾根へ、数キロもの距離を飛ぶこともあるんですよ。盛夏や秋にはあまり見られない、迫力ある姿です。

繁殖期のオスのライチョウ。残雪に合わせた保護色に変わるので羽色が白色
どうして人を恐れない?
ところで、始めにも書いたように、ライチョウは人をあまり恐れません。そっと足を運べば、数メートルほどの距離にまで近づくことも可能です。野生の鳥にしては、珍しいことだと思いませんか?
なぜ、これほどに警戒心が薄いのか。理由の1つに挙げられるのが、日本人とライチョウの長い付き合いです。日本では古くから山岳信仰が盛んで、山の自然を大切にしてきました。霊山にいるライチョウは「会えば良いことが起こる」「福が来るなど」といわれ、「神の鳥」として大切にされてきたのです。
長い関わりの中で「人は自分たちを襲わない」と刷り込まれたのでしょう。北欧などにいるライチョウは狩猟の対象とされてきたからか、警戒心が強く、近くで見ることはとても難しいのだそうです。
山岳信仰が廃れた明治期には一時、日本でも狩られることもありましたが、その後に禁止され、大正12年に「天然記念物」、昭和30年には「特別天然記念物」に指定され、現在まで大切に保護されています。
ライチョウを見やすい山は?… 続きを読む
執筆=小林 千穂
山岳ライター・編集者。山好きの父の影響で、子どものころに山登りをはじめ、里山歩きから海外遠征まで幅広く登山を楽しむ。山小屋従業員、山岳写真家のアシスタントを経て、現在はフリーのライター・編集者として活動。『山と溪谷』『ワンダーフォーゲル』など登山専門誌に多数寄稿するほか、山番組にも出演。著者に『女子の山登り入門』(学研パブリッシング)などがある。2014年に南米のチンボラソ(6310m)に登頂。
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