日本経済新聞社がまとめた2023年夏のボーナス調査によれば、全産業の平均支給額は前年比2.60%増の89万4285円となり、集計以来、過去最高となりました。新型コロナウイルスの打撃を受けた企業の業績が回復し、賃上げムードも影響したようです。
社員へのボーナスは賞与として「経費」に計上され、法人税を計算する上でも損金となるため、企業の節税につながります。業績に応じてボーナスを支給すれば社員のモチベーションが向上し、さらなる飛躍も期待できるため、会社の経営上、ボーナスをうまく活用したいものです。
今回は、ボーナスを支給する際の税金面の留意点やキャッシュフローに与える影響などについて考えてみましょう。
役員への賞与は原則損金にならない
社員に支給する賞与は損金になりますが、取締役などの役員に支給する賞与は原則として損金にはなりません。したがって、「当期は予想以上の利益が出たから役員に対してボーナスを支給して法人税を節税しよう」という対策は使えません。
ただし、役員に支給する賞与を損金に算入する方法もあります。それは「事前確定届出給与」という制度を利用するやり方です。「事前確定届出給与」として役員賞与を損金算入するためには、役員賞与を支給する時期や支給金額をあらかじめ株主総会で定め、税務署に届け出なければなりません。そして届け出通りに支給した場合に限り、損金となります。
このように、事前確定届出給与は、前もって役員賞与の支給額を決めなければならないため、予想以上の利益が出たときの節税策としては使えないでしょう。
決算賞与をうまく活用しよう
夏と冬に支給する通常の賞与の他に、決算賞与を活用する方法があります。決算賞与とは、その年度の業績が良好だった場合に、業績に基づいて臨時に支給する賞与です。業績が好調で法人税が当初の見込みを大幅に上回りそうな場合、決算直前にできる節税方法の1つがこの決算賞与です。メリットとしては「節税につながる」ことに加え、「社員のモチベーションが向上する」などが挙げられるでしょう。
決算賞与は、その年度内に支払えば問題なく損金となります。年度内に支払いが間に合わず、翌期にずれ込む場合は、「支給するすべての社員に支給額を年度内に通知すること」「決算日の翌日から1カ月以内に支払うこと」「当期に損金経理をすること」という3つの要件を満たした場合に限り、当期の損金となります。このように支給が翌期となる場合にはハードルが上がるため、極力その年度内の支給が望ましいと思われます。
キャッシュフローに与える影響も重要…
決算賞与は確かに節税効果がありますが、キャッシュフローの側面から見れば、決算賞与を支給するとキャッシュが減ることになります。簡単な例で、決算賞与の支給が税金とキャッシュフローに与える影響を見てみましょう。
・当期の利益(決算賞与支給前)2000万円
・法人税の税率 30%
とします。この場合、法人税は2000万円×30%=600万円となります。
ここで決算賞与を500万円支払うとします。すると、当期の利益は2000万円-500万円=1500万円、法人税は1500万円×30%=450万円となり、決算賞与の支給により150万円節税できたことになります。
では、会社のキャッシュに与える影響はどうかというと、決算賞与を支給しなかった場合は法人税の600万円のキャッシュが減少します。一方、決算賞与を支払った場合は、決算賞与500万円+法人税450万円=950万円のキャッシュが減少します。また、決算賞与も社会保険料の対象となるため、社会保険料の会社負担額の分だけキャッシュがさらに減少します。このように、決算賞与を支給する場合には、将来の資金繰りなども考慮して賞与の額を決めると良いでしょう。
社員旅行を実施するときはここに注意!
企業によっては、ボーナスの支給に加えて社員への慰労や社員同士のコミュニケーションを深めることを目的として、会社負担で社員旅行を実施するというケースもあるかもしれません。この場合、会社が負担した額は基本的に「福利厚生費」として経費となります。
ただし、社員旅行の規模によっては福利厚生費とは認められず、社員への給与と認定されてしまう場合があります。どの程度の社員旅行ならば経費となるかについては、国税庁が以下のような基準を公表しています。
(1)旅行の期間が4泊5日以内であること(海外旅行の場合は外国での滞在日数が4泊5日以内)。
(2)旅行に参加した人数が全体の人数の50%以上であること。
もし、工場や支店などの職場を単位として社員旅行を実施する場合には、それぞれの職場ごとの人数の50%以上の参加が必要となります。
会社負担額の目安については、おおむね15万円程度までなら給与課税されることはないと考えられます。
注意しなければならないのは、自己都合で旅行に参加しなかった人に金銭を支給する場合です。旅行の不参加者に金銭を支給すると、旅行に参加した人に対しても不参加者に支給した金銭の額について給与課税されてしまいます。そのため不参加者に対しては、金銭を渡すのではなく2000円~3000円位の手土産を渡す程度にとどめておくのが良いでしょう。
終わりに
業績が好調なときに賞与を支給することは、節税に加えて社員の士気の向上が期待できるというメリットがあります。一方、多く税金を払っても社内に資金を留保するという選択肢もあります。どちらが会社の将来にとって望ましいか、十分に検討しましょう。
執筆=多田恭章
(一社)租税調査研究会主任研究員。税理士・社会保険労務士
TOP総合会計事務所所長。元東京国税局調査部移転価格事前確認・調査担当、都内税務署国際税務専門官、東京国税局法人課税課、国税庁国際業務課(情報交換担当)を歴任。
監修・編集=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会専務理事・事務局長。株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役、TAXジャーナリスト、会計事務所ウオッチャーとして活動。元税金専門紙・税理士業界紙の編集長。
*一般社団法人租税調査研究会(https://zeimusoudan.biz/about)
法人税、源泉所得税、所得税、消費税、印紙税、資産税、酒税・揮発油税、関税、国際税務、公益法人、査察、事務訴訟などの各税務分野の国税出身税理士を招集し、会計事務所向けに相談・教育等を手掛ける団体。現在、在籍する研究員・主任研究員は56名。会員会計事務所は約100会計事務所。