ボーナスの支給時期は、一般的には夏と冬の2回が多いのではないでしょうか。国家公務員は人事院規則により支給時期が決まっており、夏のボーナスが6月30日、冬のボーナスが12月10日です。地方公務員も国家公務員に近いタイミングで支給されます。
一般財団法人労務行政研究所(理事長=猪股宏氏)が、東証プライム上場企業のうち187社から回答を得た集計結果によれば、2023年冬のボーナスの妥結額は、全産業平均で80万28円。対前年同期比で1.5%の増加となっています。2020年のコロナ禍以降、各社の冬のボーナスは大幅にダウンしましたが、2022年冬のボーナスは前年比8.5%と大幅増加に転じ、2023年は伸び率こそ1.5%の増加ですが、1970年以降最高額の80万円台になりました。
こうした情報が報道されると自社と比較して、「うちは高い、低い」などと多くの社員の仕事に対するモチベーションへの影響も少なくないでしょう。アフターコロナにおいて、大企業こそ売り上げを伸ばしてボーナスアップとなっていますが、中小企業の多くは、コロナ禍前の経営状況に戻っていないケースも少なくありません。経営者としては、社員をガッカリさせないように、なんとか資金を確保してボーナス支給までたどり着けたのに、モチベーションアップどころか不満材料になったのではたまったものではありません。
コロナ禍でボーナスが減った社員からすると、支給されるだけでも「ありがたい」と思う人もいるでしょう。こうした雰囲気が社内にあるのならば、経営者としては「皆さんの働きのおかげで、ボーナスを支給する余力ができてきた」と感謝を伝え、今後につなげることが重要です。さらに、取引先やお客さまに喜んでもらい、会社の業績を上げ、その利益を皆で分かち合いたいという“思い”を伝えておくと、「自分たちの行動やその結果次第でボーナスは上がっていく」と、社員のモチベーションが高まっていくと思います。
つまり、「ボーナスは自動的に出るものではない」という認識を社内で共有することが重要です。大企業と違い、中小企業にとってのボーナスは、会社の財務に直接影響する場合も少なくなく、支給方法の厳密なルール化は難しいかもしれません。そのため、ルール化できない場合は、「毎回、業績に応じて決めています」といった説明をしっかりして、社員に納得してもらえるような努力が必要です。一方で、配分方法はできるだけオープンにしたほうが、より社員が納得すると考えます。
夏・冬の年2回、給与の〇カ月分をボーナスとして支給している会社なら、財務状況を考慮して1回に支給する金額を減らし、年3回に変えるのも一つの方法です。経営者にとっては、資金繰りという面で負担が軽くなるため検討する価値はあると思います。当然、社員に納得してもらう必要がありますが、中小企業はそれほど社員が多くないという利点を生かし、きちんと話し合えば改革を進められる可能性もあります。
ただし注意が必要なのが、支給回数です。4回以上になるとボーナスではなく通常の給与と見なされ、社会保険料や所得税の計算方法も通常給与と同じにしなければなりません。健康保険・厚生年金保険では、名称を問わず労働の対償として受けるすべてのもののうち、年3回以下のものをボーナス(賞与)、年4回以上のものを給与(報酬)としています。このため、ボーナスとして支給するのなら年3回までにする必要があります。
3回にする場合、例えば「決算賞与」を活用してはいかがでしょうか。決算賞与についてはこのコラムの第95回「ボーナスで節税。ただしここに注意」で説明しています。決算賞与は通常のボーナスとは異なり、決算前後に支払われますが、通常のボーナス同様に損金計上できます。そのため多くの会社では、予想外に利益が上がり決算前に急いで節税対策をするときに決算賞与を払っています。決算賞与という名目で支給すれば、社員に対しても「会社の売り上げ」「財務状況」などでボーナスが支給されていると意識付けるきっかけになるでしょう。
ここで注意が必要なのが、法人税法上、社員(使用人)に対して支給するボーナスの額は、適用要件を満たさなければ損金計上できない点です。なお、使用人に対して支給するボーナスの額には、使用人兼務役員に対して支給するボーナスのうち使用人としての職務に対応する部分の金額が含まれます。
決算賞与の支給時期は、法人税法施行令72条の3第2号にて企業の決算月から1カ月以内と定められています。例えば決算月が3月である場合、企業は3月中に金額を決定し、社員に通知して4月末日までに支給します。
決算賞与を損金算入するには、法人税法施行令第72条の3第2号に定められている要件を満たす必要があります。要件は以下の3つです。
1.支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受けるすべての使用人に対して通知をしている。
2.1の通知をした金額を通知したすべての使用人に対しその通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1カ月以内に支払っている。
3.支給額につき1の通知をした日の属する事業年度において損金経理をしている。
上記をすべて満たす場合に、決算賞与を損金算入できます。
ボーナス支給時期を変更する
業種・業態によっては、資金繰りなどの状況から無理のない時期に支給時期を移行する方法があります。具体的には、一つのプロジェクトを無事に終え、その案件の売掛金が入金された直後などです。頑張った結果としてボーナスが支給されたと明確になるので、モチベーションアップの効果が期待できます。また、入金後の支払いのため財務状況への負担も少ないと考えられます。
また、納付時期が決まっている法人税や消費税などの時期を考慮して賞与の支給時期を決めるという方法もあります。支給後に発生する賞与分の源泉所得税や社会保険料については、各種税金の納付時期と重ならないため、資金残高を平準化できるというメリットがあります。
いずれにしてもボーナスの支給に関しては、財務面、税金、社会保険料などに影響があります。社員にとっても、額面上は上がったが、いろいろと引かれたら手取りが減るという事態もありえます。せっかくのボーナスですから、払う方ももらう方も有意義なものにしたいですね。
執筆=一般社団法人租税調査研究会
一般社団法人租税調査研究会(https://zeimusoudan.biz/about)
法人税、源泉所得税、所得税、消費税、印紙税、資産税、酒税・揮発油税、関税、国際税務、公益法人、査察、事務訴訟などの各税務分野の国税出身税理士を招集し、会計事務所向けに相談・教育等を手掛ける団体。現在、在籍する研究員・主任研究員は55名。会員会計事務所は約100会計事務所。
主な著書に『一冊ですべてわかる!暗号資産の税務処理と調査対応のポイント』(第一法規)、『国税OB税理士による 税務調査のすべて』(大蔵財務協会)、『加算税の最新実務と税務調査対応Q&A判決・裁決・事例で解説』(大蔵財務協会)、『税目別ケースで読み解く!国際課税の税務調査対応マニュアル』(ぎょうせい)等多数。
監修・編集=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会専務理事・事務局長。株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役、TAXジャーナリスト、会計事務所ウオッチャーとして活動。元税金専門紙・税理士業界紙の編集長。