IT時事ネタキーワード「これが気になる!」(第132回)iPhone 15 Proで対応の「Wi-Fi 6E」って何?

時事潮流 デジタル化

公開日:2023.10.30

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 9月13日(日本時間)に発表された「iPhone 15 Pro」「iPhone 15 Pro Max」において、Wi-Fi(無線LAN)の機能にアップデートがあった。具体的には「Wi-Fi 6E」に対応した、という。「Wi-Fi 6E」は「E」(Extend、「拡張」という意味)が付いた新しい規格、2022年9月2日より国内での運用が総務省管轄の「電波法施行規則等の一部を改正する省令(令和4年総務省令第59号)」により認可されている。

iPhone15 Proで対応の「Wi-Fi 6E」とは。Pixelはすでに対応

 iPhoneは、iPhone11シリーズ、iPhone SE(第2世代)以降、「Wi-Fi 6」に対応している。「Wi-Fi 6」は、現在一番ポピュラーなWi-Fi規格。2019年9月のiPhone 11シリーズの発売から4年、今回のアップデートは久しぶり、ともいえる。ただし、アップデートは「Pro」モデルのみで、通常の(「Pro」のつかない)「iPhone 15」シリーズは従来通りの「Wi-Fi 6」対応となる。

 「Wi-Fi」とは、「Wi-Fiを世界中のユーザーに届けている企業で構成された世界的なネットワーク」である「Wi-Fi Alliance」が使用するブランド名だ。「Wi-Fi」の規格はIEEE(「アイ・トリプル・イー」と読む。「Institute of Electrical and Electronics Engineers」の略)という団体が決めている。「Wi-Fi」の規格は、1997年に標準化された「IEEE 802.11」の後ろにアルファベットを付けて世代を表すが、「11n」や「11ac」のように規格名称を省略して呼ぶことも多い。さらなる略称として、6番目のWi-Fi規格である「11ax(IEEE 802.11ax)」を「Wi-Fi 6」と呼ぶ。ちなみに1つ前の「Wi-Fi 5」は「11ac」、2つ前の「Wi-Fi 4」は「11n」である。

 「Wi-Fi 6E」に関しては、認可前の2022年中頃の対応ノートパソコン発売を皮切りに、対応端末が続々と発売されている。Androidスマートフォンに関しては、ASUSのZenfone 10や、Google Pixel 7,8シリーズ、Samsung Galaxy、SONY Xperiaなどが6Eに対応している。

新しい周波数帯6GHz帯。「Wi-Fi 6E」のメリットは?

 「Wi-Fi 6E」は、従来の「Wi-Fi 6」の2周波数帯(「2.4GHz帯」「5GHz帯」)に新たな周波数帯(「6GHz帯」)を追加したもの。なお、Wi-FiはWi-Fi 4、5、6と規格が新しくなるに従い最大通信速度が向上していくが、「Wi-Fi 6E」は「Wi-Fi 6」ベースとなり、パフォーマンスは基本的に「Wi-Fi 6」と変わらない。

 新たな6GHz帯についていえば、現5GHz帯の一部チャンネルで「DFS(Dynamic Frequency Selection)」と呼ばれる、気象レーダーなどとの干渉防止機能により、通信が途切れることがあるが、6GHz帯ではDFSはなく、より安定した通信が期待できる。「Wi-Fi 6E」では「6GHz帯」として5925MHzから7125MHzまでの合計1200MHz幅が想定されているが、実際に利用できる周波数帯は国や地域により異なる(Wi-Fi Allianceの「Countries Enabling Wi-Fi in 6 GHz (Wi-Fi 6E)」参照)。なお、電波法により新たに国内で利用できるようになった6GHz帯の周波数帯は「5925~6425MHz」となる。

 「Wi-Fi 6E」を利用するメリットは、新たな周波数帯が使えることだろう。従来の帯域(特に「2.4GHz帯」)は利用者が多く、混雑が激しくパフォーマンスが落ちる場合がある。筆者の住む住宅地において、アナライザーアプリでチャンネルの使用状況を見ると、特に2.4GHz帯の混み様はひどく、ほぼ空きがない。混んでいるチャンネルでの通信は、接続速度や反応にストレスを感じることが多い。比較的利用者が少ない5GHz帯を筆者は普段使用するが、それでもチャンネルが重なる場合があり、前述「DFS」の動作するチャンネルを利用したこともある。その場合、「起動時1分間は無線を停止してレーダーがないか確認」「動作中にレーダーを受信したら他のチャンネルに移動する」ため、時たま通信が途切れる時間が発生し、不便を感じた。

気になる「Wi-Fi 7」との違いは?

 「Wi-Fi 6E」を利用するには、対応端末(子機)と対応ルーター(親機)が必要となる。現状、まだわずかな利用者のみの6GHz帯域を利用できて、DFSの縛りもないのは、Wi-Fiの混雑に悩む人には、なかなかのメリットかもしれない。ただし、「Wi-Fi 7」の姿がちらつく現状で、6E対応機器を揃える価値があるのか、という懸念もある。

 「Wi-Fi 7」とは、「Wi-Fi 6/6E」に次ぐ次世代のWi-Fi規格だ。「IEEE 802.11be Extremely High Throughput (EHT)」とも呼ばれ、6E同様の3帯域を利用できる点に主な特徴がある。

 一方、「Wi-Fi 6」はスマートフォンやタブレット、IoTデバイスなど多くの端末が無線LANを同時に利用する機会が増えたことで、世界中で増加するデバイス数に対応するための規格として、混み合った環境でもつながりやすいこと、端末のバッテリー節約などに重きが置かれていた。

 この点、これからの規格である「Wi-Fi 7」は、社会的に高解像度の動画配信やビデオ会議、オンラインゲームなど、リッチでリアルタイム性が求められるコンテンツが増えた現状を考慮し、すべてのデバイスに安定した超高速通信をもたらす目的の規格といわれ、通信速度の向上、低遅延・低ジッタなど、通信品質に重きが置かれている。

 「Wi-Fi 7」対応機器の認証開始は2024年初頭、規格の策定完了は2024年12月の予定(総務省「IEEE 802.11be無線LANの技術的条件の検討」)だ。このため正式な対応ルーターが市場に並ぶのは2025年以降になるのでは、という予測もある。現在でも「Wi-Fi 7」対応をうたう製品もあるが、正式な策定以前の製品は、ドラフト段階の仕様に基づく。

 また、「Wi-Fi 7」の特徴は、新たな帯域(6GHz帯)の利用に加え、チャンネル幅(周波数の帯域幅)が最大320MHzと「Wi-Fi 6」の2倍となり一度に転送できるデータ量が大幅に増えたこと、「QAM」(Quadrature Amplitude Modulation、「直交振幅変調」。高周波でデータを伝送・受信する変調方式)が「4096-QAM」に変わり伝送の速度と効率が大幅に向上すること、新技術「MLO」(Multi-Link Operation、異なる周波数帯域とチャンネルでデータを同時に送受信)により、伝送速度、遅延、信頼性が向上すること、などである。Wi-Fi 7は理論値で最大通信速度が46Gbpsと「Wi-Fi 6」の約4.8倍、となっている。その他、信頼性やパフォーマンスも大幅に向上、スマホやノートPCに欠かせないWi-Fiの進化は、なかなか楽しみでもある。

今後どうなる?傾向と対策

 筆者の経験上、Wi-Fiの新規格の浸透は、他のITテクノロジーに比べて割と歩みがゆっくりしているように感じる。例えば、現行の「Wi-Fi 6」に関しても、ドラフト段階から機器を入手してきたものの、最初はかなり不安定だった。また、従来規格の通信機器や他機器との兼ね合いや、ルーターと端末との相性問題、バグなどもあり、ファームアップや機器の入れ替えを繰り返し、ようやくここ1年程度で安定してきた印象がある。

 電波は目に見えないから厄介、ともいえる。建物の造りや壁、家具の材質や配置から、ルーターの置き場所や方向、端末を操作する場所など、さまざまな要素があり、不具合の原因を突き止めにくく、改善も難しい。機器を設置しただけで安定した高速通信がすんなり使えればよいのだが、皆それなりに苦労しているのではないだろうか。定期的に情報をチェックしつつ、導入を検討し、導入後は試行錯誤を繰り返して気長に向き合う。そんな姿勢がよいように思う。初期の新規格につきものの混乱や使いづらさの可能性を想定すれば、「不安定な新規格より安定したスタンダード」という選択もある。それを思えば、「Wi-Fi 6」に新周波数帯を加えた「Wi-Fi 6E」は狙い目かもしれない。

※掲載している情報は、記事執筆時点のものです

執筆=青木 恵美

長野県松本市在住。独学で始めたDTPがきっかけでIT関連の執筆を始める。書籍は「Windows手取り足取りトラブル解決」「自分流ブログ入門」など数十冊。Web媒体はBiz Clip、日経XTECHなど。XTECHの「信州ITラプソディ」は、10年以上にわたって長期連載された人気コラム(バックナンバーあり)。紙媒体は日経PC21、日経パソコン、日本経済新聞など。現在は、日経PC21「青木恵美のIT生活羅針盤」、Biz Clip「IT時事ネタキーワード これが気になる!」「知って得する!話題のトレンドワード」を好評連載中。

【TP】

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