IT時事ネタキーワード「これが気になる!」(第81回)中小企業もメリットのクラウドファンディング活用は

資金・経費

公開日:2021.08.18

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 クラウドファンディング(crowdfunding)とは群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語で、「インターネット上で公開した資金募集案件に対して投資者や寄付金を募る仕組みであり、支援金で開発した商品・サービスの事前購入や、寄付先から進捗報告等の受領が可能になる」(消費者庁「平成29年版消費者白書」より)というもの。商品開発をはじめ、社会・政治活動、映画・音楽・スポーツへの支援、ソフトウエア開発、科学研究などへの幅広いプロジェクトで活用されている。

 協力者を募って何らかのプロジェクトを行うこと自体は別段新しくない。1884年、自由の女神像の台座の資金集めに新聞で呼びかけ、12万人から寄付が集まった。1997年には英国のロックバンドツアーに、ファン主催のインターネット上のキャンペーンで6万ドルを集めた。日本でも寺院や仏像などを造営・修復するため、庶民から寄付を求める「勧進」をはじめ、数々の資金集めプロジェクトが以前から行われている。

 クラウドファンディングサービスは2000年代に米国で開設された。代表的なものに「Indiegogo」「Kickstarter」などがある。自主制作の映画や音楽、実験的な新製品など、さまざまな方面の試みを公開し資金を募れるサービスを行っている。日本での開設は2011年、東日本大震災の年だったこともあり、新たな資金調達の手段としてだけでなく寄付を行える新たな手段として急速に発展した。日本最大のクラウドファンディングサービス「CAMPFIRE」には、さまざまなプロジェクトが並ぶ。

CAMPFIRE」https://camp-fire.jp/

 

 「こんな物やサービスを作りたい」「世の中のこんな問題を解決したい」などの夢やアイデアを起案者として誰でも発信でき、協力したいと思う人は誰でも支援を行えるのがクラウドファンディングの特徴だ。今までは資金力がない個人やグループ、商店、中小企業などが起案者に多い印象だった。

 ところが最近、地方自治体や大企業の参加が目立つ。応援したい自治体に寄付を行うことで、住んでいる地域に納める税金が控除されて自治体から返礼品を受け取れる、いわゆる「ふるさと納税」もクラウドファンディングの一種だ。2021年2月にはパナソニックが、寝言も言うしオナラもしちゃう弱いロボット「NICOBO(ニコボ)」のプロジェクトを「Makuake」で公開し、なんと7時間足らずで目標を達成し話題となった。

クラウドファンディングに大手が斬新なプロダクト、そのメリットと意図

 大企業のクラウドファンディング利用の理由はなんだろうか。各プロジェクトの目標額はいって数百万円、大企業がそんな額に困るのは考えにくい。パナソニックの担当者いわく、「市場性を確認するテストマーケティング」だという。ソニーは2014年に文字盤とベルトが一体化した電子ペーパーの腕時計「FES Watch」の開発プロジェクトをMakuake上で立ち上げたが、最初、社名を隠して参加していた。製品に対する純粋な反応を見たかったのがその理由だ。

 実際に身銭を切って賛同してくれる人の数や支援額は、一般的な市場調査よりも極めて具体性の高い“現実”ともいえる。斬新な企画を提案しても事業規模や採算性にとらわれた考えが先行し、淘汰される「事なかれ主義」「大企業病」への対抗措置として、クラウドファンディングは一役買うかもしれない。

 さらに、大企業での商品化は、企画設計からデザイン、生産ライン、マーケティングや広告、在庫など膨大な費用がかかる。大きなリスクが伴うが、クラウドファンディングなら、リスクは小さく済む。普段の企画会議なら通らないようなユニークな商品企画でも、クラウドファンディングで賛同者を得られれば得られるほど、自信をもって商品化を探れる、というわけだ。

商品企画、商品づくりに変化~消費者と共につくるユニーク商品

 ソニーは2015年7月、「新規事業を加速する」をうたい文句にクラウドファンディングサービス「First Flight」を立ち上げた。First Flightには、ソニー内外のさまざまなプロジェクトが動いている。入社1年目のソニー社員が提案した、バンドにスマートウオッチ機能を集約したアナログ腕時計「wena」は、日本史上初の1億円以上の支援金額を達成した。子どもたちの創意工夫を引き出す全く新しいロボットトイ「toio」も、このサービスから生まれた。

 消費者はクラウドファンディングサービスサイトを回遊して、魅力的なプロジェクトを探す楽しみがある。実際、筆者も支援をいくつか行っている。商品の早割などのリターンもだが、賛同して資金援助を行った夢やアイデアが実現する経過を、プロジェクトの一員のような気分で見守るのが何よりも楽しい。

 クラウドファンディングを企業や組織が利用し始めることによって、企画・アイデアの実現や商品の作り方が変わってきている。コロナ下で、クラウドファンディングは頼りがいのあるパートナーになりそう。

大手だけでなく中小にもメリット、活用のすすめと今後の展望

 起案者、賛同者の両方にメリットがあるクラウドファンディングが盛んにならない理由はない。実際、購入型クラウドファンディングの市場規模は増加傾向にあり、2020年は501億円となっている(日本クラウドファンディング協会 クラウドファンディング市場調査報告書「購入型クラウドファンディング市場規模の推移」より)。

 大企業と同様に中小企業にもメリットがあるのはもちろんだ。夢やアイデアのリスクの少ない実現手段として、大きな実現への試金石として有用なのは言うまでもない。

 クラウドファンディングで支援者を募り、支援の集まり具合で生産量を決め、無駄な在庫をなくして利益率を上げた例もある。在庫リスクを減らせるのも中小企業にはうれしいところだ。クラウドファンディングで、今まで商品化をためらってきたマニアックな商品も打ち出しやすくなってきた流れは、ユニークなアイデアやこだわった商品づくりで中小企業がさらなる一歩を踏み出すよい機会にもなりそうだ。

 ちなみにクラウドファンディングには購入型を含む7種類に分類されるといわれている。クラウドファンディングの種類やメリット・デメリット、実施の流れなどの基礎知識はCAMPFIREの「クラウドファンディングとは?」や三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「クラウドファンディング(購入型)の動向整理」が分かりやすい。

 クラウドファンディングと法律については弁護士が解説する「クラウドファンディングの法律規制とは?3つのポイントを徹底解説!」や「令和2年資金決済法改正がクラウドファンディング事業にもたらす影響を弁護士が解説」も参考になる。

執筆=青木 恵美

長野県松本市在住。独学で始めたDTPがきっかけでIT関連の執筆を始める。書籍は「Windows手取り足取りトラブル解決」「自分流ブログ入門」など数十冊。Web媒体はBiz Clip、日経XTECHなど。XTECHの「信州ITラプソディ」は、10年以上にわたって長期連載された人気コラム(バックナンバーあり)。紙媒体は日経PC21、日経パソコン、日本経済新聞など。現在は、日経PC21「青木恵美のIT生活羅針盤」、Biz Clip「IT時事ネタキーワード これが気になる!」「知って得する!話題のトレンドワード」を好評連載中。

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